っと腕ぐみをして、考えこんだ。それは、さっき千蔵が、うわごとのように言った言葉の謎を、どう解いていいかという問題だった。先生は、その言葉の中に、千蔵がその夜でくわしたおそろしい事件が、はっきり織りこまれているように思われるのである。
新田先生は、病床にねている千蔵のうめき声を聞きながら、ふかい考えにしずんだ。
さっき千蔵が言ったうわごとは、たいへん意味があるように思われた。
(火柱だ、湖の中から火柱が飛出した。あっ、火柱が飛ぶ!)
これだ、これだ。
「そうか。うむ、そうかもしれないぞ」
新田先生は、膝をとんと叩いた。先生は今千蔵のうわごとから、たいへんな意味を拾い出したのであった。
(火柱だ!)
千蔵は、ゆうべ火柱をみたんだ。なぜ千蔵は火柱を見たか。それはいつごろかわからないが、とにかく千蔵は例の湖のそばへいっていたので、火柱を見たのである。湖のそばへいったわけは、息子の千二少年が、鰻を取りにいったまま、いつまでたってもかえって来ないので、心配のあまり、見にいったのであろう。そこで火柱を見たというわけだ。
(湖の中から火柱が飛出した)
火柱は、湖の中から飛出したという。その火柱は、地面の上から出たのではなく、実に湖の中から立ったのであるというのである。湖の中から、なぜ火柱が立ったか。またその火柱は、一体どうしたわけで燃立ったのか。これについて、新田先生はすこぶる大胆な考えだったが、こう考えた。
この湖の中から、火星ボートが飛出したのにちがいない。その火星のボートというのは、千二の見たという塔のような形をしたもので、それは全体がうす桃色に光っていたというから、それが湖の中から上へ舞上ったので、火柱に見えたのであろう。
これは、すこぶる大胆な考え方だったけれど、そのように考えると、次の言葉の、
(あっ、火柱が飛出した)
という意味が、ちゃんと合うのではないか。新田先生が、膝を叩いたのも道理だった。
新田先生の面《おもて》には、喜びの色が浮かんだ。
とにかくこれで、千蔵のうわごとから、一つの答えを得た。
(湖の中から、光る火星のボートが飛出した)
というのが、その答えだ。
はたして、この答えは正しいかどうか。
火星のボートは、おそらく空中に飛去ったことであろう。
一体、なぜ火星のボートは、湖の中にあったのであろうか。それは千二少年が語ったこと
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