の首は、急に曲ってしまった。たいへん妙な工合で、まるでおもちゃの人形の首を、ぎゅっと曲げたような恰好であった。
丸木は、それでも平気であった。首を曲げっ放しで、ボロンの壜を腹のところに抱えると、表へとび出した。
店頭には、もちろん、このさわぎをみようというので、弥次馬連中が、わいわい集って来て、店内をのぞいていたが、丸木は、おそれ気もなく、その連中を垣でもおしたおすように突きのけて、一散に戸外に走り出したのだった。
「おうい、待て。薬品どろぼう、待て!」
店員と弥次馬連中が一しょになって、丸木の後を追いかけた。店をしめて、静かになったばかりの銀座は、とんだことから、火事場のようなさわぎになった。
「あれっ、いないぞ。どこへ行ったんだろう!」
「おい薬品どろぼう、こっちへ出てこい」
出て行くものもないだろうが、とにかくどこへ逃込んだか、丸木の行方はわからなくなった。
7 やみとひかり
銀座に起った怪事件については、あくる朝の新聞は、たいへん大きな見出しで、でかでかと書きたてた。
「怪人、銀座に現れ、薬屋を荒す」
「怪事件におびえた昨夜の銀座通」
「共犯者の少年、逮捕さる」
など、いろいろな見出しで書きたてられたが、「共犯者の少年」とは外《ほか》ならぬ千二のことであった。
千二は、逃げそこなって、警視庁にひかれて行ったのである。
その朝刊に、もう一つ銀座の怪事件が、並んで出ていた。
「宵の銀座に、奇怪な殺人。被害者は、若きタイピスト」
各紙ともこの二つの事件は、別々の事件として新聞に並べて書きたてられた。
ただ一つ、東京朝夕新報という新聞だけは、この二つの事件を一つと考えていいような風に、記事を書いた。
「怪人、深夜の銀座をあらして逃走す。美人殺害、薬屋の店員はあやうく鬼手をのがれた。満都の市民よ、注意せよ」
この方の新聞記事は、かなり市民を驚かした。犯人が逃走したまま、まだつかまらないから、注意をするようにと書いたことが、市民の胸に、大きな不安を植えつけたのだった。
かわいそうなのは、千二少年だった。その前夜から、へんな目にあい通しであった。そのあげく、怪人丸木にこきつかわれ、共犯者ということになり、警視庁の留置場《りゅうちじょう》へ、放りこまれてしまったのである。
千二は、冷たい壁にとり囲まれた留置場に、しょんぼりと坐っていた
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