ある。ここで博士をおこらせてしまっては、人類のため大損である。先生は、一生けんめいにこらえたのだった。
 だが実は、博士は、悪気があって、先生を動物と呼んだのではなかったのだ。
 蟻田博士から、「動物」と呼ばれたことを、新田先生はいつまでも忘れることが出来なかった。が、それは博士から、「お前は動物だぞ!」と言われた時に腹が立ったという、それだけのことではなかった。それからずっと後になって、博士の言葉を、もう一度たいへんなおどろきと共に、思い出さなければならない大事件の日がやって来たからである。それはどんな大事件か、やがてわかる。
 博士は、病める火星人のために薬を塗終えた。
 火星人はたいへんに喜んだ。そうして全身をふるわせつつ、自分の体を博士の体にすりよせた。
「蟻田博士、ありがとう、ありがとう」
 よほど、うれしいらしい。
 博士は、にこにこ笑って、その病める火星人に、ゆっくり体を休ませるように言った。そうして、火星人が、そこに寝ると、その火星人の体の上に、きれをかけて暗くし、それから、どういうわけかその火星人の足を、水をいっぱい張った大きな洗面器のようなものの中に、つけさせたのであった。
 それを見ていた新田先生は、また不思議に思った。
「火星人の足を、水につけたりして、一体どうしたわけですか。おまじないなんですか」
 と、新田先生は尋ねた。
 すると博士は、首を左右に振って、
「いや、これはおまじないではない。こうすることによって、火星人はさらにいきいきとして来るのだ」
 と、博士は妙なことを言った。まるで、植物の根に水をあたえて、いきいきとさせるようなことを言った。
「え? 博士の言われることが、よくわかりませんが」
「わからないと言うのか。ふん、君にはそこまでわかるまい」


   43[#「43」は縦中横] 寄生藻《きせいも》


 蟻田博士の手当がうまくいったのか、病気の火星人は、その後すやすやと眠り出した。
 もう一人の仲間の火星人も、気づかれがしたものか、そのそばで大きな瞼を重そうにぱちぱちしていたが、これもまた、うつらうつらと眠りについてしまった。
 急にあたりは、しんとしてしまった。地底には、博士と新田先生とが、じっと向きあっていた。師と門下生とが、ひさかたぶりに水いらずで向きあっているのであった。博士の心はどうか知らないが、新田先生の胸中に
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