とは?」
「つまり、博士はいい人だとか、悪い人だとかいうことです」
「さあ、そんなことは、うっかり言えないがねえ」
と、課長はつつしみ深い口ぶりで、
「ここだけの話だが、前には、蟻田博士は、おかしいと思っていたんです。しかし、こうして博士の予言通りに火星兵団が攻めて来た今日、私は博士はおかしいとばかり、きめてしまうわけにはいかんと思う」
大江山課長は、前のことを思い出しながら、しんみりと、ただ今の気持を先生に話した。
「じゃあ、蟻田博士が、とうとい大学者であることを、大江山さんはみとめたわけですね」
「まあまあ、それに近いと思って下さい。だが、我々は博士について、全く気を許してしまうわけにはいかないと思っている」
「え、気が許せないというのですか。それはまた、なぜです」
「それはつまり、これもここだけの話だが、蟻田博士は、火星のスパイではないかと、そんな気もするのだ」
大江山課長は、蟻田博士が火星人のことなどをよく知っているが、火星のスパイではないかと思うと言う。
それを聞いていた新田先生も、実は、自分の先生である蟻田博士が、いい人であるか、それとも悪い人であるか、はっきりわからなかったのである。博士の日頃の行いは、あまりにとっぴである。人間ばなれがしている。博士から、教えを受けていた昔のことを思い出してみるのに、博士は、ただもう学問のことに、いつも夢中であって、学問のためなら、その外のどんなことでも、捨ててしまうというたちであった。だから、学問のためなら、大江山課長がうたがっているように、或は、火星のスパイとなって、地球人類を陥れるかも知れないと、そんな風に思われて来るのだった。
(もし、博士が、ほんとうに火星のスパイを働いているとすると、これは許しておけないことである。これはどうしても、博士を探し出し、ほんとうの気持をたしかめてみる必要がある。何しろ、火星の学問をおさめている学者として、博士以上のえらい人はいないのだから、ぜひとも、博士が火星の味方をしないように説きふせなければならない)
と、新田先生は、ついに、はっきり自分の覚悟をきめたのだった。
「大江山さん。私は、これから行って、博士を探して来ます」
「何、博士を探しに行くというのですか」
課長は、びっくりした。
「そうです。すぐ出かけます」
「それは、我々にとってもありがたいことだが、新田さん
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