そこに待っていた。火星のボートは、今や地上を離れて、大空高く、ずんずん上昇して行くのだった。
はるか下の方には、中空からのまぶしい光に照らし出されて、たくさんの火星のボートが、まるで太い棒を植えたように見える。
その異様な中空からの光は、佐々の乗っている火星のボートから出ているのであった。これでみると、火星のボートは、エンジンをうんとかけると、ボート全体が、大変明かるく光るらしい。だから、これを遠くから見ると、火柱が天に向かって伸びて行くように見えるであろう。
「ほう、これはえらいことになったぞ。とうとうこのボートは、宇宙へ飛出したらしい」
この時、佐々刑事の声は、もうあたりまえにもどっていた。別にうろたえている様子も、恐れおののいている様子も見えなかった。
「さあ、これは珍しい旅行をすることになったぞ。このボートは、どこまで行くつもりかしらないが、何しろ、火星のボートに乗って、宇宙旅行をしたのは、わしが始めてだろう。これでまた話の種がふえたぞ」
と佐々刑事は、おもいの外、落着きはらっていた。
火星のボートに、とりこになってしまったような佐々刑事であった。宇宙へ飛出したのはいいが、これから果して彼はどんな目にあうことやら……。
36[#「36」は縦中横] 脱出
話は変って、こっちは新田先生であった。
先生は、今はうたがいもなく火星兵団の一隊長であるところの、怪人丸木の恐るべき人間狩の話を聞き、今はもう、ぐずぐずしていることは出来ないと思ったので、先生はくらがりを幸いに、洞穴をうしろにして、山を下りにかかった。
先生は、肩に大変貴重な品物をぶらさげていた。それはほかでもない、あの変話機だった。それを使えば、火星人の話が、人間の言葉に変って、耳に聞えるという不思議な機械だった。
先生は、くらがりの山の斜面を、ずるずると二、三メートル下っては休み、耳をすました。誰か、自分の後を追いかけて来ないであろうかと、先生は、心配であった。別に、そのような音がしないのをたしかめると、先生は、またずるずると二、三メートル下って、また耳をすますのであった。もし今火星人に見つけられたら、今度こそ、人間の世界へはもどれないであろう。
その心配は、時間と共に、だんだん薄らいで行った。火星人は、先生が逃出したことに気がつかないらしく、誰も追いかけて来るものはなか
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