考えた。しかしどうも、一向にとけなかった。
 明くれば、その翌朝、課長は、警視庁へ出勤する道すがらも、バスの中で、いろいろ考えつづけたが、やはりとけなかった。
(近く地球のうえでは、暦がいらなくなる――とは、はてな)
 出勤してみると、大江山課長は、或る別の事件で、急に目がまわるようないそがしさとなった。それがため、あれほど気になっていた老博士の謎だったが、いそがしさにまぎれて、忘れるともなく、忘れてしまった。
 それは、一週間ほど、のちのことだった。
 ふと、大江山課長は、蟻田博士がぶつけていったあの謎の言葉のことを、思いだした。
(はて、あれは、どこまで考えたのだったかなあ)
 大江山課長は、それを思いだすのに、たいへん骨が折れた。それとともに、課長は、ふしぎな気持におそわれた。それは外でもない。あれほど、ぎゃんぎゃんやかましいことをいった蟻田博士が、その後うんともすんともいってこないことだった。
 課長は、その日も時間がたつにしたがって、博士のことが気がかりになった。そこで彼は、部下の刑事をよびだした。
「おい、佐々《さっさ》。君、これからすぐ出かけて、蟻田博士がなにをしているか、様子をみてきてくれ」
「ははあ、いよいよまた始りますね」
「なにが、始るって」
「いや、変な人相手の、新こんにゃく問答が始るんでしょう。こんどは、こっちも負けずに、でたらめな文句を用意していって、変な博士をあべこべに、おどかしてやるかな。うわっはっはっ」
 佐々刑事は帽子をつかんで、課長の部屋をとびだした。が、しばらくすると、彼は顔色をかえて、戻ってきた。
「課長、いけませんや」
 顔色をかえて戻ってきた佐々刑事は、大江山課長の机のうえに、はいあがるような恰好をして、ものものしいこえを出した。
「どうしたのか、佐々」
 課長も、胸になにかしら、するどいものを突込まれたような感じがした。
「課長! 蟻田博士が、姿を消してしまったんです」
「姿を消した? すると家出したのか、それとも殺されたのか、どっちだ」
 大江山課長も、息をはずませて、問いかえした。
 全く、厄介《やっかい》なことになったものである。「火星兵団」をいいだした博士が、奇怪な謎をのこしたまま姿を消すなんて、めいわくな話である。
「わしの外《ほか》に、この謎をとく力をもった人間は、居ないであろう」
 などと、大きなことをい
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