ほおづえ》をついて考えこんでいる。
課長からの電話だと思って、千二少年を出してやった掛りの責任者は、すっかりおそれ入ってしまって、これまた石像のように固くなって、突立っているばかり。
「だが、あの少年は、なかなかはしっこい子供だったから、うまく家へ逃げかえったんじゃないかしら。どうです、千葉へ電話をかけてみては」
と、佐々刑事ひとりが、元気よくいろいろとしゃべる。
課長は、相変らず、頬杖をついたまま、動こうともしない。
「どうです、課長。千葉へ電話をかけては……」
佐々は、課長を元気づけたいと思っているようで、机の前から半身を乗出して、課長の顔をのぞきこんだ。
大江山課長は、はっきりしない顔つきのままで、唇だけを動かした。
「それは、だめだ」
「課長、なぜだめです。この名案が……」
「名案?」課長は、じろりと上目で佐々の顔を見て、
「そんな名案があるものか。佐々《さっさ》、お前は、まだライスカレーの食い方が足りないらしいぞ」
「ははあ、ライスカレーですか。はははは」
と、佐々は、とってつけたように笑い出した。佐々お得意のライスカレーのことを、課長が言ったので笑い出したわけであるが、佐々としては、ここで大いに笑って、課長を元気づけたい一心だった。
だが、課長は、佐々の笑いにつられて、笑い出しはしなかった。
「そうじゃないか。なぜと言えば、もし千二が朝のうちにこの留置場から出ていったものとすれば、お昼すぎには千葉の家へかえりついているはずだ。そうだろう」
「まあ、そうですね」
「かえりつけば、千葉警察の者が、こっちへすぐ報告して来るはずだ。なぜと言えば、千二の家は、ちゃんと警官が張番をしているんだからな」
「なるほど」
「ところが、今はもう夜じゃないか。しかるに、千葉からは、何の報告も来ていない。すると、千二は、まだ自宅へかえりついていないことが、よくわかるじゃないか」
「な、なるほど」
佐々は、なるほどの連発だ。
「そこだ、私のたいへん心配しているところは」
と、課長は、語気を強めて言って、
「だからこれは、ひょっとすると、千二が途中で例の怪人丸木にさらわれてしまったのではあるまいか。そういう疑いが起るではないか」
課長だけあって、考えがかなり深かった。ほんとうに課長の言うことは、中《あた》っていたのである。怪人丸木は、たしかに千二を途中でさらって
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