中には、こうした意味ぶかい文句があったのである。
モロー彗星と地球との衝突は、もうさけることの出来ないものだ――と、蟻田博士は信じきっている。だが、その衝突が、いつ起るのやら、それについては、口をかたくむすんで、語ろうとしない博士だった。
新田先生は、どうかして、その衝突の予想日を、博士から聞出したいと、あれやこれやと、手を考えた。
「もし、博士。僕にもお手伝をさせて下さい。モロー彗星の位置の計算でもやりましょうか」
すると、博士は笑って、
「ふふん、お前なぞにそんなむずかしいことが、出来るはずがないよ。手伝ってくれるというのなら、この望遠鏡で、モロー彗星の様子にかわりがないか、それを気をつけていてくれないか」
そう言って、博士は望遠鏡を新田先生にゆずった。
もちろん博士は、その望遠鏡の使い方について、一通りのことを新田先生に、教えてやらなければならなかった。また、モロー彗星が、これまでどんな風に形を変えていったか、それについても、写真や観測表でもって、大体の知識を入れてやらねばならなかった。おかげさまで、新田先生は一気に最新の天文学をのみこむことが出来た。
そこで、新田先生は、ひとりで、望遠鏡を動かすことになった。
ただ残念なことには、モロー彗星のいるところが、今ちょうど太陽面の近くにあり、そのうえ雲が邪魔をしているので、はっきり見えないことだった。しばらく時間をまつよりほか、仕方がない。
その代り、新田先生は、望遠鏡をいろいろと動かして見ることが出来た。博士が世界一を誇るだけあって、じつにすばらしい明かるい望遠鏡だった。そのうちに、新田先生は、異様なものを、望遠鏡の中にとらえた。
12[#「12」は縦中横] 三つの獲物《えもの》
湖畔に起った怪事件を取調べるため、かねて千葉へ出張中だった大江山捜査課長は、一日向こうに泊り、その翌日の夕刻、東京へ帰って来た。
帝都は、今ちょうど暮れたばかりで、高層ビルジングのあちこちの窓には、電灯の火が明かるくかがやき、その下で、いそがしい仕事をかたずけるため居残りをしている社員たちの姿さえ、はっきり見られた。
「課長、すぐ本庁へ行かれますか」
と、自動車の運転をしている警官がたずねた。
「ああ、すぐ本庁へたのむ」
課長としては、こういうわけのわからない事件の報告は、なるべく早くすませておか
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