、これを聞いて、まあよかったと胸をなで下ろした。故障のままで宇宙をとんでいるなんてことは決していい気持のものではなかった。
その日は、地上出発以来の乗組員たちの苦労をねぎらうためとあって、食堂はクリスマスのように飾りたてられ、たいへんな御馳走が出た。そしてそのあとで、デニー博士をはじめ皆が、余興に隠し芸を出して、大笑いに笑った。
楽しい時間が過ぎていった。
会がいよいよ終りに近づいたとき、デニー老博士が立上った。そして重大発言をしたのであった。
「さて諸君。諸君の美しい協力と、不撓不屈の努力とによって、本艇の故障は遂に直ったのであるが、この先、本艇はどんな航路を選ぶべきか、それを只今から諸君に相談したい。それには二つの途がある。一つは地球へ引返すこと、もう一つはこの際火星まで行ってしまうことである。どっちを諸君は望むであろうか」
そういって博士は、一同の顔をぐるっと見まわした。しかし誰も何もいわなかった。
「現在の本艇の位置は、地球と火星とを結ぶ航路の約三分の二を既に突破している。つまりあと三分の一航行すれば火星につくのである。なお、燃料はどっちにしても十分ある。これは本館――
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