君たちは、さっき警報ベルの鳴ったのをきかなかったかね。“総員退去せよ”と、ベルがじゃんじゃん鳴ったよ。それをきくと、多くの者は外へとび出し、そして助かったんだ」
そういえば、たしかにベルがけたたましく鳴っていた。それにつづいてさわがしい人声や駆足の音を耳にしたが、あれが総員退去せよとの警報だったんだ。今になって気がついては、もうおそい。
「……で、マートンさんと僕たちだけ、逃げおくれたんですか」
と、河合少年はたずねた。
「いや、まだ十数名残っている。僕は逃げれば逃げられたんだが、せっかくこしらえた宇宙艇から去るにしのびなかったのでね。たとえこの宇宙艇がどこの空中で、ばらばらに空中分解してしまうにしてもさ」
「宇宙艇ですって」
「空中分解! ほんとうに空中分解しますか」
少年たちの矢つぎ早の質問に対し、マートン技師は次のように語った。
この巨塔は宇宙艇であった。宇宙艇とは大宇宙を飛ぶ舟という意味である。そしてこの宇宙艇は河合がいったようにロケットで飛ぶ仕掛になっていた。但し、普通のロケットとはちがい、時速十万キロメートルぐらいは楽に出せるすばらしい原子エネルギー・エンジンによる
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