、一人の少年が地上にうちたおされていた。その少年は顔を両手でおさえていた。そして顔も手も血だらけであった。その少年は山木だった。
「あっ、これは失敗じゃ。つい力が入って、このステッキが顔にあたったものと見える」
 デニー博士は、ふりあげたステッキを下におろして、赤い顔をした。
 河合とジグスは、すぐ駆けよって、たおれている山木を抱きおこした。そしてハンカチで鼻をおさえてやった。山木は、博士のステッキを鼻にうけ、鼻血を出したのであった。
「おお、日本の少年君、すまんことをしたね。勘弁してくだされ。さぞ痛むことじゃろう」
 博士も山木を抱くようにして、自分の失敗について謝った。
「いいんです。もう大丈夫です」
 と、山木は首をふって見せた。すると、またどくどくと鼻血が流れて服をよごした。そのまわりには町の人々が黒山のように集まって来て、わいわいいい出した。デニー博士はいよいよあわてて、「おいジグス君。この少年を、僕の車にのせて医師のところへ連れて行こうと思うが、どうだろう」
「いや、もう大丈夫ですよ。さわがないでください」
 山木は、はずかしそうにいった。河合が紙を巻いて、山木の鼻の穴に栓
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