きわまるときが来た。今やこの少人数の宇宙艇は、彼らのために踏みにじられるその寸前にある!
「エフ瓦斯《ガス》を放出せよ」
 デニー博士の号令がひびきわたった。と、その号令は次々へ伝えられた。
 器械がうなり出す。睡っていたような艇が震動をはじめる。と、もうもうたる褐色の瓦斯が、艇の腹の数ヶ所からふきだした。その瓦斯は、その重さが火星の大気と同じくらいか稍《やや》重いかの瓦斯と見え、艇よりはすこしあがるが、あまり上にはのぼらず、そして見る見るうちに艇をすっかり包んでしまった。
 見張器の映写幕にも、この瓦斯がひろがって行く有様が手に取るように眺められた。そして今や幕面は完全にこの褐色瓦斯に蔽われてしまったが、しかし、夜の闇さえ透して物の見えるテレビ見張器の特長として、エフ瓦斯をとおして四方の情景はあいかわらずはっきりと見えていた。
 そうなのだ。火星人の大群が先程までのあのすさまじい勢いはどこへやら、この瓦斯にぶつかってたちまち大混乱の状態となり、列を乱し、ころげまわって、吾《わ》れ勝《が》ちに向こうへ逃げてゆく有様が、おかしいほどはっきりとうつっていた。
「火星人は余程おどろいたらしい
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