から博士は、次の仕事にとりかかった。それは地球へ無電連絡を確立することと、壊れた宇宙艇の修理が出来るかどうかを調べることだった。
地球との通信は、うまく行くようになった。発電機を動かす燃料も、十分にあり、新しい送受信機を組立てる部品を揃えることも出来た。
もう一つの仕事の、壊れた宇宙艇が修理できるかどうかは、一行の運命をきめてしまう重大なことがらだった。この調査には一週間を要した。その結果はとても出来ないことが分った。一行の人々の目の前は、急に暗くなった。第一、機材がどうしても足りないし、工作機械は十分でないし、それに燃料は絶対不足だった。デニー博士は、思い切って宇宙艇を小型のものに設計がえをし、乏しい機械からこれを作ることを考えたが、これにも難関があって成功は望まれそうもなかった。それはエンジンをそのままのせると、艇は重くなりすぎて飛び出せそうもなかったし、それかといってエンジンを小型にすることは、工作上とてもここでは出来ない相談だった。ただエンジンを解体して、従来のものの二分の一または四分の一にすることは出来たが、博士の考えていた小型のものに丁度いいのは、四分の一にしたエンジンを取付けることだった。だからこれはやれそうに見えたが、そこで実際に馬力と速力とを計算しているとエンジンが非常に能率を悪くする関係で、火星を出てから地球に達するまでに五ヶ年もかかることが分り、しかも五ヶ年間エンジンを動かすための燃料といえば莫大《ばくだい》なもので、とても用意が出来そうもなかった。こんなわけで、一行は遂に地球に帰還するための乗物を用意することが出来ないことが明らかとなった。一行の失望と落胆は、ここに記すも気の毒なほどだった。
「マートンさん。地球へ救援を求めることは出来ないのですか。つまり、別の宇宙艇をこの火星へよこしてもらうのです」
河合が、マートン技師にいった。
「さあ、不可能だろうね。なにしろ火星まで届くほどの有力なる宇宙艇を作り得る組織を持っている工場は、わがデニー先生の火星探険協会をおいて他にないんだからね」
「宇宙艇というものは、全然他では出来ないのですか」
「今出来ているのは、われわれのものを除くとせいぜい月世界まで届くぐらいのものなんだ。それも一旦月世界まで行っても帰還することはむずかしいからね」
「困ったものですねえ」
「ああ、全く困った」
いつも元気で、最後まで希望を捨てないマートン技師も、今は別人のように悲観の淵に沈んでいる。
「ああそうだ」と河合が叫んだ。
「マートンさん、まだやってみることがあるではありませんか」
「まだやってみることが? それは何……」
「われわれの力だけでは、もうどうにも手の施《ほどこ》しようのないことは分りましたが、しかしここは火星国です。火星人の智恵、火星の資源、火星人の労働力――そういうものはうんとあるではありませんか。それにあのギネという火星人は、これまで秘密のうちに、地球まで三回も往復しているんだそうですから、あの火星人に頼めば、われわれの知らない強力なエンジンを貸してくれるかもしれませんよ。そしてたくさんの火星人の労働力を借りるなら、どんな巨大な宇宙艇だって楽に早く建造することが出来るのではないですか」
「おお、それはすばらしいアイデアだ。そうだ、われわれはわれわれの力だけで解決することを考えていたので、宇宙艇の再建造は不可能だと決めてしまわねばならなかったんだ。火星人に協力を求める! なるほど、そうだったね。そういう道があるのだ」
河合少年の思付《おもいつき》は、早速《さっそく》マートン技師からデニー博士に伝えられた。博士はそれを聞いて喜んだ。そしてその方向に、問題を解決する道を進むことになった。
それからはとんとん拍子に行った。ギネの好意で、火星政府もエンジンを貸すことを承諾し、火星人の技術団をつけて地球まで行かせることにしてくれた。但しこのエンジンの秘密は当分地球人には公開されないことを一つの条件として……。
それから半年の後、地球人と火星人の合作による新宇宙艇の建造はめでたく完成した。この新艇には“太陽の子”という名前がつけられた。火星も地球も共に太陽の子であるという意味を含めたもので、同じく太陽の子である以上、仲よくしましょうという平和精神が盛られてあるのだった。
試運転も地球人と火星人の協力でうまく行った。そして一ヶ月後に、地球帰還の用意万端は成り、いよいよ“太陽の子”号は、はなばなしく初航空の旅についた。地上からは火星人たちの盛んな見送りがあり、艇からはデニー博士一行と、地球訪問の火星人使節団と技術団とが手を握り、触手を動かして挨拶をかわした。こうしてめでたい地球人と火星人との協力による宇宙旅行が始まったのであった。
デニー博士が調査作製した宇宙航
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