へ寄ってきた。そういわれると、なるほど河合は自分の服が油だらけになっているのに気がついた。
「ちょっとお手伝いをしたところが、この有様さ。ところで張君は、うまくやっているかい」
と、河合は料理係になった張少年のことを心配してたずねた。
「張君のことか。彼奴は大喜びだよ。なぜって、御馳走のつまった缶詰の中にうづまっているんだからね。ところで君は何をたべるかね。何でも持ってきてやるよ」
ネッドは、にこにこして、たずねた。
「そうだね、あついコーヒーとね。それから甘いものだ。ショート・ケーキか、パイナップルの缶詰でもいいよ」
「よし、何でもあるから、うんと持ってこよう」
「でも、食料品が足りないという話だから持って来るのは少しでいいよ」
「なあに、うんとあるから大丈夫」
ネッドは心得顔で、調理場へ入っていった。
河合が待っていると、調理場で大きな叫び声が聞えた。何だろうと思っていると、間もなくネッドが妙な顔をして河合の方へやってきた。彼は左手でパイ缶を持ち、右手には皿を持ち、その皿でパイ缶を上からおさえつけるようにしている。
「どうしたんだ、ネッド」
と、河合はたずねた。
「いやあ、へんなことがあるんだよ。パイ缶をあけたんだよ。すると中からパイナップルがぬうっと出てきたんだよ。まるでパイナップルが生きているとしか思えないんだ。それとね、甘いおつゆがね、やはり缶から湯気のようにあがってきて、そこら中をふらふら漂《ただよ》うんだよ。おどろいたねえ。まるで化物屋敷みたいだ」
「ふうん、それはふしぎだなあ」
「だからこうして缶の上をお皿でおさえているんだ。気をつけてたべないといけないぜ」
「どういうわけだろうね、それは……」
河合はネッドから缶をうけると、ふたになっている皿を下へおいた。すると缶の中からにょろにょろと甘いおつゆが煙のように出てきた。そしてその下から、黄いろいパイナップルの一片がゆらゆらとせりあがってきた。
「ああこれだね。へんだなあ」
「早く、フォークでおさえないと、パイナップルが逃げちまうよ。さっきも調理場で、一缶分そっくり逃げられちまったんだ」
「なるほど、これはいけない。パイナップル、待ってくれ」
河合はフォークをふるって空中を泳ぐようにして、動いているパイナップルの一片をぐさりとつきさした。
これは一体どうしたわけだろう。
地球からもうか
前へ
次へ
全82ページ中39ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング