牛頭大仙人の予言をつつしんで承るより方法がないよ。おい牛頭の仙ちゃん、一つ水晶の珠で占っておくれよ」
「だめ、だめ。僕に占いなんか出来やしないよ」
 牛頭大仙人で村人を黒山のように集めたときの元気はどこへやら、張少年は赤くはにかんで隅っこへうずくまる。
「だめなことはないよ。じゃあ僕が水晶の珠を持ってくるから、君は占いたまえ」
 ネッドが立上って、傍にほこりだらけになっている牛乳配達車の箱の中へ入っていった。
「だめ、だめ。ほんとうは、僕は占いなんかできやしないんだ」
「ふふふふ、張君がほんとうのことを白状したぞ。占いや予言なんて、あれはでたらめにきまっているさ。僕は前から知っていた」
 と、小さい技師の河合がいった。
「そうもいえないよ」と山木が反対した。
「占いは、一種のたましいの働きなんだ。だからたましいを小さいピンポンの球のように固めることができる人は占いができる人だとさ。張君は、それができるんだろう」
「そういわれると、僕にも思いあたることがあるよ、ときによると、僕のたましいはピンポンの球ぐらいに固まることがあるよ」
 と、張が、真面目な顔付で膝をのりだした。
「そうだろう。そういうときに占いをすればちゃんと当るのさ。そうそう、そのことを精神統一というんだ」
「うそだ、あたるもんか」
 と、河合はあくまで反対だ。
「そんなら、あたるかどうか、ここでやってみればいい、さあ水晶の珠を持ってきたよ」
 ネッドは、水晶の珠を張の前へ置いた。
「一体何を占うんだい」
「これから僕たちはどうなるか、それを占ってみな」
「よし、やってみるぞ」
 張は水晶の珠の前にあぐらをかき、それから両手を珠の方へぐっと伸ばし、目をつぶった。そうしたままで、張はしばらく眉の間にしわをこしらえ、むずかしい顔をしていたが、やがて目を大きく開いて水晶の珠を穴のあくほど見つめた。その大げさな表情を見ていた河合は、ぷっとふきだして笑いかけたが、山木がそれを見て河合の口を手でふたをした。
「しずかに……」
 そのとき張が、へんな声を出して喋りだした。
「……ああら、たいへん。僕たち四人の胸に大きな勲章がぶら下っているよ……」
「でたらめ、いってらあ」
 河合が山木の手の下から呼んだ。
「しずかにしないか、こいつ……」
 山木が河合の口をぎゅうとおさえた。
 と、張は、
「おやおやおや、景色が一変し
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