たちを喜ばせたものは、塔の上から風景絶佳のコロラド大峡谷を眺めることだった。絵にかいたようだというが、それ以上にうるわしい風景だった。そして一日のうちに、大谿谷はいくたびも違った顔をしてみせた。すがすがしい朝の風景、真昼になってじりじりと岩が燃えるような男性的な風景、巨岩にくっきりと斜陽の影がついて紫色に暮れて行く夕景などと、見るたびに美しさが違うのであった。四人の少年は、声もなく大谿谷の美にうたれて、時間の過ぎ行くもしらず塔上に立ちつくすのであった。
一週間は夢のように過ぎた。さすがに四人の少年は、この本館内での生活に退屈を感ずるようになった。博士に、それとなく聞いてはみたが、当分ここから出してくれそうもない。困ったことである。夏休みはもう何日も残っていないから帰りたいといったところ、博士は学校の方には通知を出しておいたからすっかり直るまでここにいていいのだと答えた。それではもう仕様がない。
或る日、ネッドが顔を輝かして、仲間のところへ戻ってきた。四人の少年の乗って来た牛乳配達車が、この本館の或る部屋にちゃんとしまってあるのを見付けたというのである。
「そうか。それはいいものを見つけたね。すぐ行ってみよう」
「すっかりそのことは忘れていたね」
四人の少年は、にわかに元気づいて、ネッドを案内に先立たせ、その部屋へ行ってみた。そこは地階七階にある倉庫の一つであった。彼等の自動車の外にも、乗用車やトラックが入れてあった。少年たちはその方にはちょっと目をやっただけで、あとは懐しい箱車の上によじのぼり、まだ罎詰などがたくさん残っている箱車の中に入ったりした。
こうして自分たちのぼろ車のところで遊んでいると、ふしぎに退屈しなかった。それで一日のうち何時間はここで遊ぶことに相談がまとまった。但しそれを看護婦なんかにいうと叱られるかもしれないので、ここで遊ぶことは内証にして置くことに決めた。
そういうことが、また次の大事件に関係する原因になるとは露知らぬ四少年だった。
地階の窓
地下七階にあるこの倉庫に四名の少年が集まると、必ず自分たちの身上がこれからどうなるのか、またこの巨塔は何だろうかということについて論じ合うのが例であった。
その謎は深い。毎日のように論じ合っても、その謎は解けなかった。
山木が張《チャン》をからかっていった。
「こうなったら、
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