庭で山木と河合とにねだるのだった。
或る日ネッドは、山木と河合とが修理のため牧場の自動車小屋へ行くと後からついて来て、ぜひ連れて行けとねだるのだった。二人はおんぼろ自動車を見られてはたいへんだと思い、道の途中でネッドをおいかえすのに骨を折らねばならなかった。
「山木に河合よ」
ネッドはいつになくかたちを改めて二人を見つめた。
「なんだ、ネッド」
二人は道のまん中に立ちふさがって、ネッドのかたい顔をにらみつけた。
「あのね、張がほんとうに心配していることがあるんだよ。二人が自動車旅行に出て行くと二日とたたないうちに、君たちはたいへんな苦労を背負《せお》いこむことになるんだってよ」
「へん、おどかすない」
「おどしじゃないよ。張がね、君たちの旅行の安全のために、ご先祖《せんぞ》さまから伝えられている水晶の珠《たま》を拝んで占ってみたんだとさ、すると今いったとおり、二日以内によくないことが起ると分ったんだ。そればかりではない。この旅行は先へ行くほどたいへんな苦労が重なって君たち二人はいつこの村へ帰れるか分らないといっているぜ」
かねて、張が水晶の珠で占いをすることは山木も河合も知っていたので、そういわれると何だか前途が不安になって二人の顔色は曇った。それを見ていたネッドは、ここぞとばかりつっこんでいった。
「ねえ。いやな話だからさ、用心のために張と僕をいっしょに連れていけばいいだろう。そうすれば張は道々で水晶の珠で占いをして、この先にどんな危険があるかをいいあてるよ。それが分れば、難をのがれることができるじゃないか」
「だめだよ、そんなうまいこといったって……それに、第一その話は、張を連れて行くのはいいと分っても、君まで連れていかねばならないわけにはならんじゃないか」
「僕は絶対に入用だよ。だって張が占いをするときには、僕が手つだってやらないと、仏さまが彼にのりうつらないんだもの」
「だめ、だめ、何といってもどっちも連れて行きやしないよ、これからいうだけ損だよ」
「……」
「この次のときまで、待つんだね」
「どうしても今度はだめなんだね」
「そうさ。張にもよくいっておくんだよ」
「……じゃあ、もう頼まないや」
ネッドは気の毒なほど悄気《しょげ》て、田舎道を村の方へ引きかえしていった。それを見送る山木と河合とは、あまりいい気持ではなかった。だがこれまで吹きまくった
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