ような手をふりかざして踊りだし、はては、くるくるとまわりだした。どうやら箱自動車の上で一所けんめい踊っている三少年の狸踊をまねているものと見える。
「これはいい。音盤を二三枚廻しているうちに、火星人はぼくたちと仲よしになるにちがいない。おーい、皆、せいを出して踊れよ」
河合は下から自動車の屋根へ、そういって声をかけた。が、これはどうも上へ聞えたらしくなかった。でも三少年は夢中で踊っている。踊っていてくれれば結構だと河合は思った。
とつぜんに音盤が停った。河合は、火星人の踊りに見とれて、音盤が終ったのも知らなかったのだ。すると火星人は踊りをぴたりとやめ、またざわざわとざわめき出し、危険なしるしが見えた。
「これはいけない」
河合はあわてて新しい音盤を掛けた。
それはベートーベンの「月光の曲」であった。この静かな曲が響きはじめると、ざわついていた火星人は、ぴたりと鳴りをしずめた。
「ふむ、やっぱり火星人は音楽好きだな」
と、河合は呟《つぶや》いた。
しかし火星人たちはもう踊らなかった。そして石のようにからだを硬くして、大きな目玉をこっちへじっと向け、それから奇妙な声をあげはじめた。それは名曲に魅せられてすすり泣いているように思われた。
「おーい河合。そんな音盤はやめちまえ。ベートーベンじゃ踊りようがないじゃないか」
箱自動車の上から、山木がどなった。
「もっと踊れるにぎやかな曲をやってくれ。あれ見ろ、火星人が吠えているよ。今にこっちへとびかかってくるぜ」
ネッドが下へ抗議の声を送ってきた。
「ああ、そうだったな、君たちは踊っていたんだ。今、曲をかえるよ」
河合は、また、あわてて音盤をかけかえた。手にあたったのが「越後獅子」であった。これならにぎやかなこと、まちがいなしだ。
和洋合奏のにぎやかな曲がはじまった。
すると、そのききめは、すぐ現れた。墓石のように硬くなっていた火星人群は、たちまち陽気に動きだした。手をふり足をあげ、重そうな頭を動かして、釜の中へ蝗《いなご》を放りこんだように、ものすごく活発な踊りを始めた。
「おーい、その曲はだめだい」
上から山木がどなった。
「だってにぎやかでいいじゃないか」
「いや、だめだい。にぎやかすぎて、踊の方がついて行けないよ。かわいそうに、ネッドなんかまじめに踊っているもんだから、足がふらふらしているよ」
「
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