じてあらゆる後援を惜しまず、その申出に待機することとなった。
こうして地球と宇宙艇との通信さわぎは、一先《ひとま》ず治まり、無電員も楽になった。
デニー博士は会議の席へ戻った。そしてそれから二時間、割合としずかな時刻が過ぎていった。
「いったい、今、時刻は何時なんだろうね」
と、乗組員のひとりが、同僚に訊《たず》ねた。
「お昼頃だろうね。ほら、太陽は頭の上に輝いているよ」
彼は丸窓を通して、上を指した。
「でもへんだぜ、この火星へ着陸してからもう四時間は過ぎたのに、太陽は初めからほとんど同じように、頭の上に輝いているんだからね」
「そんなばかなことがあってたまるか」
「だって、それは本当だから仕方がない」
「それはこういうわけさ」と、通りかかったマートン技師が笑いながらいった。
「火星の上では、一日が四十八時間なんだもの。つまり火星は地球の約半分の遅い速さで廻っているので、二倍の時間をかけないと一日分を廻り切らないのだ」
「へへえ、そいつはやり切れないな。三度の食事に、二倍ずつ食べないと、腹が減って目がまわっちまうぜ」
「なあに、一日に六度食べればいいのさ」
「いや、そうはいかないぜ。夜が二十四時間もつづくんだろう。二十四時間を何にも食べないで生きていられるだろうか」
「さあ、それはちょっとつらいね。途中で一ぺん起きて食事をし、それからまた続きを睡るってえことになるかな」
「なんだか訳が分らなくなった。どうも厄介な土地へ来たもんだ。はっはっはっ」
一同は顔を見合せて大笑いをした。
再襲来か
火星人の大群が、宇宙艇の前方において、再び大々的の集結を始めたという山木の報告は、又もや乗組員たちの顔を、不安に曇らせた。
いったん潮の引くように退いた火星人たちは、こんどは前よりも一層勢いをつよめて宇宙艇へ追って来つつあるのだ。
火星人たちの人数がふえたばかりか、こんどは手に手に異様な棒を持っている。
先が丸く膨《ふく》らんだ棍棒《こんぼう》みたいなものである。そればかりではない。彼らは高い櫓《やぐら》のようなものを後に引張っていた。それは四五階になっていて、どの階にも気味のわるい火星人の顔が、まるでトマトを店頭に並べたように鈴なりになっていた。そういうものが、密林の中から次第次第に現われ、数を増してくるのであった。
(いったい彼らは、どうしよう
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