を急速にこちらへ近づき、映像は大きくなって来た。
 密林を作っている木は、どこか松に似た逞しい灌木《かんぼく》であった。それが密生しているのだった。木の高さは十メートルぐらいはあるように思われた。かなり背の高い木であった。
 山木のおどろいたのは、その木の背の高いことでもなく、また密林の壮観でもなかった。その密林の或る箇所において、何か動いているもののあるのを見つけたからだ。それは密林の木間に見えたり隠れたりしている。
(火星の動物らしい)
 山木は、その姿をもっとはっきり見定めようとして、テレビ見張器の拡大をあげていったわけだが、その木の間にうごめくものはだんだん大きくはっきりと映写幕にうかびあがってきた。
 果して、それは動物だった。
 だが何という妙な形をもった動物であろうか。早くいえば、それは蛸《たこ》と昆蟲の中間の様なものであった。すなわち大きな頭部を持ち、それを細い体が重そうに持ちあげているのだ。頭部には、大きな目が二つついていた。鼻は見あたらず、その代りに絵にかいてある蛸の口吻《こうふん》そっくりの尖ったものが顎《あご》の上につき出ているのだった。その上に顔の両側に驢馬《ろば》の耳によく似た耳がついていた。それからたいへん奇妙なことに、頭のてっぺんに根きり蟲が持っているような長い触角らしいものが二本だか三本だか生えていて、それは非常に柔軟に見え、そしてさかんに頭の上で活動して居り、まるで触角で踊っているようにも見えた。
 その動物の首から下を見ると気の毒なくらい痩《や》せていた。小さな瘤《こぶ》のような胴中、それから三本のぐにゃぐにゃした腕、それから三本の同じような脚――この脚は、たしかに蛸の足を思わせるものであった。
 一体何だろうか、このえたい[#「えたい」に傍点]のしれない動物は……。山木はその動物のあたりに[#「あたりに」はママ]奇妙な姿にかぎりない興味をおぼえ、それを発見したことを報告するのを忘れていたくらいだった。
 その奇妙な動物は、木の間を縫って、あっちへ行ったりこっちへ行ったり、忙がしそうにしていた。そして彼らの或るものは、幹にぴたりと寄り添って、大きな目をぐるぐる廻し、触角を盛んにふり立てて、宇宙艇の方を注視している様子であった。
「……へ、へんな動物が見えます。沙漠の向うの、正面の密林の中です」
 山木はこのとき漸《ようや》く吾《
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