にしてくれたまえ。それはきっと君たちを助けるだろう」
「はあ。そのトランクの中には、何が入っているのですか」
「それはね、わしが永年苦心して作った設計図などが入っているのだ。そのときになれば分るよ」
「博士。それでは、この宇宙艇では、もう地球へ戻れないのですか」
「多分、戻れないだろう。帰還用の燃料は殆んどなくなったし、艇もこのとおり大損傷を蒙っているしね、それにまだいろいろ心配していることがあるんだ。おお、そうだ。こうしてはいられない、またゆっくり話をしてあげようね」
 老博士は、大事な用事を思い出したと見え、すたすたとむこうへ行ってしまった。
 それから河合は食堂へ行った。
 そこには仲間が集っていた。山木もいた。張もいた。ネッドの顔も。皆無事であった。運がよかったのだ。ただ張だけが右脚に打撲傷を負っていて、足をひいていた。
 河合少年は、老博士からいわれた話を、ここで皆にして聞かせた。
 この宇宙艇では地球へ戻れない、という話は一同を失望させた。河合は一同を励まさねばならなかった。デニー博士の信頼と期待とを破らないように、これから一層勉強をしなければならない。これは地球人類の光栄と幸福のために、ぜひそうしなければならないのだと力説して、ようやく一同の気を引立てることができた。折からマートン技師が入ってきた。彼もまた無事だったが、衣服は油ですっかり汚れ切っていた。またエンジンと組打《くみうち》をやって大奮闘をしたのであろう。
「おお、皆無事だったな。見たかね、火星の表面を。宇宙塵圏を通り抜けたので、今はすっかり晴れて、火星の表面がよく見えるよ。火星の運河というのを知っているね。あれもちゃんと見えるよ。さあ早く、展望室へ行ってごらん」
 そういわれて、四少年は飛出していった。そして展望台へ駆けのぼった。
 おお、見える見える。火星の表面が明るく見える。火星の昼なんだ。それはもう地球を上空から見下ろすのと大差はなかった。
 緑色の長い条が、蜘蛛の巣のように走っている。あれが火星の運河にちがいない。
 が、それは運河ではなさそうだ。まだはっきりはしないが、何だか森林が直線状に続いているように見える。
 火星の陸地は、褐色であった。やはり土があると見える。
 海らしいものも見える。しかし地球の大洋を見なれた目には、あまりに小さい海だ。まるで湖のように見える。
 一体本艇
前へ 次へ
全82ページ中52ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング