い》に通しますと、癌《がん》などに大変|効《き》き目のあることが発見されました。これをラジオテルミーと呼んでいますが、デアテルミーよりもずっと効き目が強いのです。この施術《しじゅつ》の方法は、超短波が盛んに通っている二つの電極《でんきょく》の間に、人体の患部《かんぶ》を入れるのです。電極というのは金属板で出来ていまして盆《ぼん》のように丸い平べったい板です。
ところが或る時、研究室で飛んでもないことが起りました。超短波を盛んに起して置いて、実験者がそれに手を近づけましたのですが、本当は先ず手を先に電極板の間に入れて置いて、あとでスイッチを入れて超短波を起す方がよいのです。このときはつまり逆の順序でやりました。実験者は研究中のことですから、いろいろやって見る必要があります。そうしないとよい装置も出来ないし、性質も深く知ることが出来ません。実験者はその手を電極板の中央に入れる代りに、電極板の端の方に近づけてみました。恐《おそ》らく違った結果が現れるだろうと思ったのです。近づけるに従って、指の股の辺がスースーと涼しくなりました。それを尚《なお》も近づけると、指が急に熱くなり始めました。それを辛抱《しんぼう》していますと、急に手が吸いつけられるように、電極板に引寄せられました。
「こいつは、いかん!」
と思う間もなく、指が電極板の端《はし》に触れました。途端《とたん》にうずくような痛みが感ぜられ、同時にコロリと下に落ちたものがあります。サーッと真赤な血が花火のように噴《ふ》き出《だ》しました。
「ウム……」
実験者はもぎとるように手を強く引きました。手は幸い極板《きょくばん》を離れました。実験者はホッとして、その手を眺めました。ところが、サア大変です。指が足りない! 美事《みごと》に伸びていた四本の指が根こそぎ切り落とされ、残っているのは拇指《おやゆび》一本! 指の無くなった跡からは、盛んに血が飛び出して来る。実験者はサッと蒼《あお》くなりました。一方の手で傷口を抑えたまま、ウンといって其の場に仆《たお》れてしまった。一体どうしたというのでしょう? 医療器《いりょうき》だと思って安心していたのが、俄然《がぜん》殺人器に転じてしまったのです。駭《おどろ》いたのも無理がありません。
超短波メス――というのが生れたのは、それから間もないことでした。意外な失敗、それは超短波
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