に、さしこの頭巾《ずきん》、下は巻きゲートルに靴をはいている。頭巾から出しているのは、二つの小さな目だけ、若い人か、老人か、どっちかわからない。しかし声をきくと老人のようだった。
「おい、坊や。ここに立っているのは、七丁目の交番かい」
 江戸から明治にかけてこのような消防のすがたが、はやったことを、源一は何かの本で読んだことがある。
「そうです。七丁目の交番です」
「うへえ、やっぱりそうか。もうすこしで戸まどいするところだった。なんしろこうきれいに焼けちまっちゃ見当《けんとう》がつきやしない。じゃあ、アバよ」
 と、行きかけるのをあわててとめた。
「おう、待ってくれよ、おじさん」
「なんだい、待てというのは……」
「ちょっとおじさんの意見をきかしてもらいたいんだ。ぼくはね、これからここに店を開くんだけれど、何の店を始めたらいいだろうね」
「なんだって」
 相手は本通りから源一の立っているところまで歩いてきた。そして頭巾をぬいで背中へまわした。すると相手は、あから顔の、短い白毛頭《しらがあたま》の、六十歳あまりの老人だと分った。人の好さそうな小さい目、実行力のある大きな唇、源一は、この人
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