「もういいんだよ。このごろは元気で働いているくらいだから大丈夫よ。そればかりか、妹のつれあいにすすめられて山を買ってね、それがセメントの原料になるんで、あたしゃ大もうけをしちまったよ。病人どころじゃないやね」
「へえーッ、大したもんだな。じゃあ、このお店もおかみさんにかえしましょう」
源一は、とっさに決心をしてそういった。
「な、なにをおいいだね。この店はきれいに源どんにあげたんじゃないか。とりかえすなんて、そんなけちな考えは持っちゃいないよ。それよりもね、源どん。あたしがこんど東京へ出て来たのは、一つはこの店のあとが今どうなっているかを知りたいこと、それからもう一つには、やっぱり東京へ出て、新しい時代にふさわしい商売をはじめたいと思ってね、それで出て来たのさ、お金なら二、三百万はあるし、セメントならいくらでもあるんだが、なにかいい商売ないだろうかねえ、源どん」
「はっはっはっ。これはおそれいった。やっぱり商売の腕は、矢口家のおかみさんにはかなわねえや」と、源一は頭をかいて、
「その新しい商売ですがね、じつは、私も考え中なんですが、ひとつ私の方の仕事へのってくれませんかね」
「どんな
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