いは、どこよりもまっ先にきれいになり、りっぱになり、そしてあっと目をうばうようなものがあらわれるのだった。
 銀座をあるいていても、もう靴にほこりがつかなくなった。一丁目で靴をみがいて、銀座八丁をぐるぐると二回ぐらいまわっても、靴はやはりぴかぴか光っていた。文化の光は、ようやく銀座からかがやきはじめたのである。「ふーン、もう目につかなくなっちゃった。これじゃしようがない」
 源一は、一坪館の向い側に立って、こっちを見ながら、大きなためいきをついた。
 建てたときは、あたりからずばぬけて背の高い三階建の一坪館だったけれど、今はもうあたり近所にかなりりっぱなものが建ってしまって、一坪館なんか下の方にひくく首をちぢめてしまったかたちだ。
 ヘーイ少佐はそのころアメリカへ連絡にかえって不在だった。
「どうしたもんだろうね、犬山さん」
 源一は、相談相手といって、ほかにないから犬山画伯に相談をかけた。
「しんぱいすることはないよ。そのうちに、いい運がむいてくるよ」
 画伯《がはく》はなぐさめる顔でいった。しかし画伯は何を建てるにしても、まず先立つものは金と資材《しざい》とであることを思い、源一も
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