ゲンドン、かわいい花を売っているね。よく売れるかい」
そういって少佐は、にこにこ顔ではいって来て、店の中をみまわした。
源一は、このみすぼらしいテント店にはこのごろお客もめったに入らないので、いすの背にもたれて「火星探検」という小説をよんでいたところだった。火星探検が、ほんとにこの小説のように出来ればいいなあ。原子力《げんしりょく》エンジンをつけたロケットにのって、くろぐろとした大宇宙をのり切って、やがて火星に近づいて行く……。「ああ、すばらしいねえ、いい気持だねえ。ゆかいだろうなあ」と、すっかり火星|探検者《たんけんしゃ》になりきっているところへ、源一は少佐から声をかけられたのだ。
源一は、あわてて本をふせると、立上って少佐をむかえた。
「ああ、いらっしゃい。よくいらっしゃいました」
源一はぺこぺこおじぎをした。少佐もそれをまねておじぎをした。少佐は日本語が上手につかえる。少年のときにも日本にいたことがあり、中学を卒業するとアメリカへ帰り、教育をうけ、大学を出て、建築技師としてはたらいているうちに、またこの日本へ来た人であった。
「足はどうですか。まだ痛みますか」
「すっかり
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