健康がもどって来たのだった。そしてときどき銀座へあらわれて、源一の一坪店を見によってくれる。
店の看板も、もう五六度もかきなおしてくれた。源一はその代金を払おうとしたが、画伯《がはく》はいつも、
「とんでもない。源ちゃんからそんなものをもらわなくても、僕は大丈夫食っていける」
といって、けっして受取らなかった。
「でも、僕だって、このごろそうとう儲《もう》かるんですよ。とって下さい」
「今に僕が展覧会をひらいたら、そのときには源ちゃんに買ってもらおうや」
犬山画伯は、これは冗談《じょうだん》だがとことわりながら、それでも目をかがやかしたものだったが……。その画伯は、どうしたんだろう?
残された者
そのうち銀座は、えらいいきおいで復興しはじめた。まずその第一|着手《ちゃくしゅ》として、銀座八丁の表通を、一か所もあき地のないように店をたてならべることになった。
その工事はにぎやかにはじめられた。木材を使った安っぽい建物ながら、おそろしいほどの金がかかった。しかし焼跡が一つ一つ消えていって、木の香も高い店舗《てんぽ》がたつとさすがににぎやかさを加えて、だれもみんなうれ
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