う、すごいすごい。むかし浅草に十二階の塔があったがね、これは最新式の十二階だ。しかし、なんだかあぶないね、頭でっかちだからね」
「ところが、あれで安定度も強度もいいんだそうだ。ちゃんと試験がすんで、大丈夫だと折紙つきなんだ」
「よく君は、知っているね」
「昨日あの上までのぼったのさ。十二階に、今いったようなことの証明書や設計図面などが並べてあるんだ。君もひとつ、てっぺんまでのぼってみたまえ」
「のぼっても、いいのかい」
「いいとも。各階とも全部店なんだ。ただ十二階だけは展覧会場に今つかっているがね」
「そうか。じゃあ今からのぼってみよう。早くのぼっておかないと、時代おくれになる」
 十二階の一坪館は、たちまち、東京の大人気ものとなった。したがって各階の店は売れること売れること、みんなほくほくだ。
 この建物の持主である源一と来たら、えびすさまみたいに、一日中笑顔を見せつづけている。
 犬山画伯も大よろこび、註文の絵の表装《ひょうそう》が間にあわないというさわぎだ。
 矢口家のおかみさんは、源一に、とうとうときふせられて、一階に再び煙草店《たばこみせ》を出した。しかし煙草はすぐ売切れになってしまうので、雑誌と本の店を開いた。
 源一の花店は、十一階へ移った。
「源どん。一坪館、りっぱになった。これで君は満足したか」
 ある日、ヘーイ少佐がたずねて来て、笑いながら源一にきいた。
 すると源一は、首を横にふった。
「まだまだ、満足しません。もっと大きなものを作りたいんです」
「ひゅウ」少佐は口笛をふいて、おどろいてみせた。
「これ以上大きな家ができるとは思わない」


   二十年後


「ヘーイさん。ぼくの夢をここに図面にしてかいておきました。これを見て下さい」
 源一は、そういってヘーイ少佐の前に、図面をひろげてみせた。
「わははは。これはいったい何ですか」
 ふだんは落ちつきはらっている少佐が、ひどくおどろいて、図面の前に頭をふった。
 そうでもあろう。その図面には、大きな飛行場がかいてあったのだ。
 もっともその飛行場は、大地の上にあるものではなく、高架式《こうかしき》になっているのだ。つまり、飛行場の下に、大建築物の並んだ近代都市が見えるのだ。飛行場は高架式で、源一の図面によれば百四十四本の支柱《しちゅう》でささえられていた。
 その支柱は、約五十メートルの高さがあり、そして互いにビームで枠形《わくがた》に組み合っていた。そういう支柱百四十四本の上に、平らな飛行場がのっているのだ。もちろん鉄の枠の上に鉄板が張ってあり、その上に滑走路《かっそうろ》用の舗装材料が平らにのせてある。
 また、その図面には、飛行機が数台|翼《つばさ》をやすめているところがかいてあった。それはいずれもみなヘリコプター式の飛行機ばかりであった。
 つまり銀ブラのために、人々はヘリコプターに乗ってこの飛行場まで来て着陸し、それから下へさがって銀ブラとなるわけであった。
「ああ、そうか。ここに見える一本の支柱が一坪館だ。そうだね」
 少佐は、太い指で、一本の支柱をおさえた。
「そうです。よく見て下さい。ヒトツボカンと、ネオンサインがついているでしょう」
「はははは、ゆかいだ。こんな大きな飛行場を上にかつぐようになっても、一坪館は、やはりあるんだね」
「そうですとも、この一坪館をみんなに見せて、あと百四十三軒の一坪館をこしらえるんです。それからその上に飛行場をこんな工合につくるんです」
「すばらしい考えだ」
「これで儲《もう》かったら、こんどはもっと飛行場をひろげて、大型の旅客機が発着できるようにしたいです。そのときには、銀座はもちろん木挽町《こびきちょう》から明石町の方まで、すっかり飛行場の下になってしまうはずです。どうですか、おもしろいでしょう、ヘーイさん」
「下のビルディングの人たちが怒《おこ》りはしないだろうか。うちの頭の上に飛行場をつくったので、日光がはいらなくなったといってね」
「その頃になると、建築物はアメリカ式になって、もう窓のない家ばかりになるでしょうから、日光の方の心配はないと思います」
「なるほど。それでは下のビルディングが、飛行場よりもっと高いビルを作るから、飛行場に穴をあけるぞといって来たらどうする」
「さあ、そのときは、またヘーイさんに来てもらって、相手をうまく説きふせてもらいましょう。はははは」
「おやおや、まだぼくを使う気かね。いったいこの図のとおりになるのはいつのことかね」
「まあ二十年後でしょうね」
「二十年後か。よろしい二十年後に、ぼくはかならず源どんのところへ飛んで来るよ。はははは」
 ヘーイ少佐と源一は、ゆかいそうに笑う。



底本:「海野十三全集 第12巻 超人間X号」三一書房
   1990(平成2)年8月1
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