バラバラにしてしまいました。先刻《さっき》と反対です。レッドの身体を本庁で縫い合わせたとき、肩の肉が途中で落したものか無かったため、穴ぼこ[#「ぼこ」に傍点]になっているのです。そうなったのもヤーロのせい[#「せい」に傍点]だというので、ヤーロの肩の肉をナイフで切り、その序《ついで》にバラバラにしてしまったのです」
「仕方がない。早く両人を集めてこい。こんどは罰金をすこし高くしよう」
 それから二十一日経った。捜査課長はご機嫌|甚《はなは》だ斜めだ。さっき総監からイヤな言葉を抛《な》げつけられたのだ、「君のところには、取り立て未了《みりょう》の罰金がすこぶる多くて責任額にも達しないじゃないか。あまり成績が悪いと気の毒だが、退職して貰わにゃならぬぞ」と威《おど》されたのである。
(よオし、こうなったらば已《や》むを得《え》ん。最後の手を用いて、総監の鼻を明してやろう……)
 彼は机上のマイクロフォンを取りあげて、レッドとヤーロの逮捕を電命《でんめい》した。
 二人の親分が本庁に到着したのは五分の後だった。
「二人揃ったネ。揃ったら、そのまま此の手術室へ入れッ」
「なにをするんです、課長さん」
「罰金は二、三日うちに届けますよォ」
「黙って入らんか。わしの命令だッ!」
 レッドとヤーロが手術室の中に姿を消してから、約一時間の後|扉《ドア》が明いて、一人の人間が出て来た。レッドのようでもあり、ヤーロのようでもあった。よく見ると縦半分《たてはんぶん》に切断した二人の身体を半分ずつ接《つ》ぎ合わせてあった。右がレッドで、左がヤーロ。ちっとも足並が揃わず、二本の手は激しく抓《つね》り合っている。
「さあ、こっちへ来い」と課長は意地悪い笑《え》みを浮べて云った。
「当分この状態で暮してみろ。不便で参ったら、例の罰金を調達《ちょうたつ》してこい。そうすれば元々どおり、レッドはレッド、ヤーロはヤーロの身体にしてやる。金が払えないうちは駄目だぞォ」
「課長、ひでえや。もう一人のあっし[#「あっし」に傍点]達はどうなるんで……」
「あれは人質にとっといて今日から下水掃除をさせる。辛けりゃ早く金を納《おさ》めて引取りに来い」



底本:「海野十三全集 第5巻 浮かぶ飛行島」三一書房
   1989(平成元)年4月15日第1版第1刷発行
初出:「モダン日本」モダン日本社
   1934(昭
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