茶を一ぱい飲んでからのことだ」
紅茶に角砂糖を四つ抛《ほう》りこんだのを、さも美味《おいし》そうに飲み終ってから課長は調べ室の方へトコトコ歩いていった。
「では調べを始めるとしよう。被害者の用意は、もういいナ」
「はい、出来ています。連れて参りましょうか」
「まだいいよ。加害者のヤーロが先だ。ここへ引立ててこい」
チェリーを一|服《ぷく》喫《す》っているところへ、ヤーロ親分が留置場《りゅうちじょう》から連れられてきた。
「課長さん。早速《さっそく》ですが自白《じはく》しますよ。レッドの奴をバラバラにしたなア、このあっし[#「あっし」に傍点]でサ。刑罰はどの位ですか」
「そんなことは、まだ云えない。それよりもお前は何故レッドを殺害したのか」
「ナーニね。あいつの面《つら》がどうにも気に喰《く》わねえんでサ。むしゃくしゃとして、やっちゃいました。それだけのことです」
「よオし。では次に被害者を呼べ。レッドを呼ぶのだ」
ヤーロはそれを聞くと椅子から立ち上った。警官は畏《かしこ》まって、隣室から被害者レッドを連れてきた。
「やッ、ヤーロ奴《め》、ここにいたな」
「こらッ、静まれ、喧嘩をしちゃいかん。ところでレッド、被害者として何か申立たいことはないか」
「へえ、ありがとうごぜえやす。あっしを殺したこのヤーロの奴を、ウンと罰してやっておくんなさい。終り」
「それだけだナ。よし決まった。判決。ヤーロはレッドを殺害したる罪により、金五万円也の罰金に処す。但し二十日以内に納付《のうふ》すべし」
「えッ五万円を二十日間に……。そりゃひどい。月賦《げっぷ》にしておくんなさい。毎度のことじゃありませんか」
「駄目だ、毎度のことじゃから……。閉廷《へいてい》!」
捜査課長は、木の槌《つち》で卓《たく》の上をコツンと叩いた。加害者と被害者とは睨《にら》み合ったまま、室《へや》を出ていった。
課長は手をのばして、葉巻を一本口へ抛《ほう》りこんだ。そして思わず独白《ひとりごと》した。
「外科が進歩するのも良《よ》し悪《あ》しだ。バラバラ屍体も二、三十分のうちに、元のピンピンした身体に縫いあげられる世の中では、殺人罪が流行《はや》りすぎてイカン」
そのとき扉が開いて、警官が顔の色を変えて入って来た。
「課長、大変です。本庁の前で殺人です!」
「ホイ、また流行ったか」
「レッドがヤーロを
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