していなかったのだ。もちろん誰かからそういう説明を聞けばよく分って警戒もしたであろうが、事実説明はなかったとのことである。
さて或る日、帆村の事務所へ電話がかかってきた。大辻《おおつじ》という助手が出て、相手の名前を訊ねたところ、貴方は帆村氏かという。大辻助手が、私は主人の帆村ではないと応えると、相手は帆村氏を電話口へ出してくれといって、なかなか身柄を明かさない。そこで大辻はその由を帆村に伝えたが、まあこんな風な電話のかかって来方は事件依頼主が身柄を秘したいときによくやる手で、それほど大したことではなかった。
入れかわって帆村が電話口に出てみると、相手はまた入念に帆村であることを確かめた上で、
「――実は、こっちは内務省なんですが、秘密に貴下の御力を借りたいのです」
と、始めて身柄を明かした。
そういう官庁とは、はじめての交渉であったけれど、官庁のことゆえ、帆村は助力をしてもいいが、と一応承諾の用意があることを明らかにし、その依頼事件の内容について訊ねた。
すると相手は、
「いや、もちろん電話ではお話できませんから、お会いしたい」
という。
「ではいつそちらへ伺いましょうか
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