」
と帆村が訊ねると、
「なるべく早いことを希望します。しかしこっちへお出でになると、いろいろな人物も出入していることだしするから、目に立っていけません。だから外でお目に懸りましょう。それには、こうしてください」
といって、木村氏と名乗るその役人は、帆村に対し、今から三十分後、日比谷《ひびや》公園内のどこそこに立っていてくれ、すると自分はこれこれの番号のついた自動車に乗ってそこを通るから、そこで車に一緒にのってくれるように、あとはこっちは委せてくれということだった。帆村は承知の旨を応えて、電話を切った。
大辻助手には、すぐに出懸けるからと前提して、電話の内容を手短かに話をし、帆村がどこに連れてゆかれるかを確かめるため、適当に車をもって公園の中に隠れており、うまく尾行をするように、そして送りこまれたところが分れば、すぐに事務所に戻っているように、またそれから一時間経って、帆村からなんの電話も懸ってこないときは、すぐさま飛びこんでくるように申し渡して、事務所を出たのであった。というのも、官庁は別に怪しくなくても、いつ悪者どもが官庁の御用らしく見せかけて、こっちに油断をさせないでもないからのことだった。
帆村は十分の仕度をして、木村氏にいわれたとおり、三十分のちには日比谷公園の所定の場所に立っていた。
それから五分おくれて、形は大きいセダンではあるが、型は至極古めかしい自動車がとおりかかった。なるほど一目でそれと知れる官庁自動車だった。ラジエーターの上には官庁のマークの入った小旗がたてられていた。
「ああこれだな」
と思った折しも、車が帆村の前にぴたりと停り、中にいた四十がらみの鼻下に髭のある紳士が帆村の方へ顔をちかづけて、
「木村です。さあどうぞ」
と、柔味のある声音で呼びかけた。
帆村はそのまま車内の人となった。
そして彼は、木村氏の案内によって築地《つきじ》の某料亭の門をくぐったのであった。時刻は丁度午後三時十七分であった。
暗号の鍵
「やあ、どうもたいへん失礼なところへ御案内いたしまして――。でもこうでもしないと、私どもの官庁の重大事件を貴下《あなた》にお願いしたことがどこへもすぐ知れ亙ってしまいますので」
と、情報部事務官木村清次郎氏は、初対面の挨拶のあとで、すぐと用談にとりかかった。
「――これは、政府の一大事に関する緊急な調
前へ
次へ
全22ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング