だ。分らないように出来ているのだ。なぜなら答が二つも出るのである。
 問題は答の二桁目のXだ。これは5か9かのどっちかというところまで進んでいたが、今となっては、5でもよければ9でも差支《さしつか》えないことが分った。つまり答は二つだ。
 Xが5であれば、求める六桁の被除数は 638897 となる。またXが9であれば、668857 となる。暗号の鍵の数字に、二つの答があってよいものか。ぜひとも一つでなければならない。そこにおいて帆村は万事を悟《さと》ったのだ。
「うぬ、一杯喰わされた」
 彼ははじめて夢から覚めたように思った。なぜ彼は欺されたのか。彼の敵は、帆村をどうしようと思っていたのか。すべては謎であった。それを解くには、一刻も早く東京へかえるより外ないと気がついたのである。
 どうやら東京には、彼の想像を超越した一大変事が待ちかまえているようである。一体それは何であろうか。
 帆村の羽田空港に下りたのは午後四時だった。彼は早速電話をもって、木村事務官を呼び出した。
 ところが意外にも、内務省では、木村事務官なぞという者は居ないと答えた。いくど押し問答をしても、居ない者は居ないということであった。
 遉《さすが》の帆村も顔色をかえた。今の今まで、内務省の情報部を預るお役人だと思っていた木村なる人物が夢のように消えてしまったのである。
 さてはと思って、こんどは自分の事務所を呼び出した。
 すると、電話が一向に懸らないのであった。留守番をしているはずの大辻は何をしているのであろうか。胸さわぎはますますはげしくなっていった。
 もうこれまでと思った帆村は、空港の外に出ると、円タクを呼んで一散に東京へ急がせた。
 木村事務官は消えさり、事務所は留守で、大辻は不在だ。そして自分は変な謎の数字にひきずられて四日間というものを方々へ引張りまわされた。一体これはなんということだ。
「ははあ、そうか。こいつはこっちに油断があって、うまく欺されたんだ。うむ、すこしずつ見当がついてきたぞ。相手は例の秘密団体の奴ばらなんだ!」
 帆村の顔は、次第に紅潮してきた。
 自宅にかえった帆村は、早速各所に連絡をとって情報を集めた。そして遺憾《いかん》ながら彼が欺されたことを認めないわけにゆかなくなった。
 すぐさま駈《か》けつけてくれた専門家の説明によって、一切は明らかになった。帆村を欺した
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