海中に沈めたり、重要書類を沢山の潜水艦に積んで、無人島にある秘密の根拠地に避難させたり、移動用の強力な無線電信局を擬装《ぎそう》の帆船《はんせん》に据《す》えつけたりしてさ、一旦は本土を喪うとも、やがて又|勢《いきおい》をもりかえして、ドイツ軍を圧迫し、本土奪還《ほんどだっかん》を企《くわだ》てようとし、そのときに役立つようにと、本土の外の重要地点において用意|万端《ばんたん》を整《ととの》えておいたというわけだ。今われわれの関係している暗号の鍵というのも、その本土の外に保管されてある重要機密の一つなのさ。その時号の鍵が、このゼルシー島の、しかもメントール侯の城塞内に隠されていることは、極《きわ》めて確実なのさ。それをわれわれの手でもって探し出そうというのだ」
白木は、今になって、すこぶる興味ある話を、べらべらと喋《しゃべ》り出すのであった。このへんは、大体のところ彼の横着《おうちゃく》から来ているのであるが、又一つには、初手から私を無駄に心配させまいとしての友情が交っていることも確かだった。だから、白木に対し、正面から抗議を申込むわけにもいかない筋合《すじあい》があった。
「あの城塞にあることは確実だというが、なぜ分る?」
「これは、ドイツの諜報機関《ちょうほうきかん》の責任ある報告で、フリッツ将軍のサインまでついているから間違いなしだと思っていい。実は、メントール侯は、既にドイツの第五列のため捕えられ、あの程度のことまでは白状したんだそうだ。しかし、それから奥のことについては、侯は一切口を緘《つぐ》んで語らないので、ドイツ側じゃ、業《ごう》を煮《に》やしているらしい。この島へも、ドイツ側は上陸して、なるべく人目にたたないように城塞へ入り込み、いろいろ調べもしたが、ついに宝探しは徒労《とろう》に終ったんだそうだ。それにこの島は今のところ、民主国側へも枢軸国側へもはっきり色を示していない国際島《こくさいとう》なんだから、行動をとるにしても、万事非常にやりにくいんだ。そうでなければ、あの鼻息の荒い連中が、われわれの前へ頭を下げてくる筈《はず》がない」
白木のことばによって、私には、だんだん事情が明《あきら》かになってきた。そして、これは今までにない重大任務だと思った。
「じゃあ、いつからあの城塞へ入り込むつもりかね」
と、私が訊《き》くと、白木はどうしたわけか、
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