を横領したものだかどうかを確める意欲に燃えあがっていた。
だが、猫々探偵の念入りな捜査にもかかわらず、今なお鬼二郎の所在を掴むことの出来ないことにおいては、碇健二の場合と同じであった。
ただ数日後の或る日、彼に思いがけない一つの収穫があった。
それは彼探偵が例の仕事を胸に畳んで虎の門公園の脇を通行中、公園の中からいきなりスポンジ・ボールがとんで来て探偵の頭に強く当った。探偵はふらふらとなった。そのとき若い男が公園の中からとび出して来て、ボールを拾う恰好をしながら、探偵にどしんとぶつかった。「すみません」と若い男は詫びて走り去ろうとするのを探偵は相手の腕をつかんで手許へ引張った。
「掏摸《すり》だな。掏《す》ったものを返せ」
と探偵は怒鳴った。相手は強力をもって暴れた。が、袋探偵は腕力にかけてはちょいと自慢するだけあって、若い男の腕首を放さない。そして内ポケットから持っていった紙幣入《さつい》れを取戻そうと争っていると、いきなり相手が探偵の手に噛みついた。
「痛ッ!」
探偵は手を放す。ごつんと向脛《むこうずね》を一撃される。探偵はひっくりかえる。と、横面をガーンと靴で蹴あげられ、探偵は気が遠くなってふらッとなった。
ここまでは探偵のあざやかな負けだった。が、彼が気を持ち直して、頤《あご》のところをおさえて立上ったとき、下へぱらりと落ちたものがある。封の破れている手紙だった。それが収穫物だったのだ。
さすがに探偵で、普通の者なら一顧もしないものを、彼はポケットへねじこみ、それから公園へ躍りこんだ。それはさっきの男を捕えるためだった。だが公園の中はひっそりかんとしていて、野球やキャッチボールをしている者はない。探偵は歯がみをしたが、どうにもならなかった。
が、後で彼は例の封の破れた手紙をポケットから出して拡げてみたところ、これは彼を昂奮させずには置かなかった。すなわち一枚の紙に書かれた全部は、悉《ことごと》く片仮名ばかりの文章であり、一度読み下してみると、それが正に暗号文であることがはっきり分ったのである。
その文章は、次の通りであった。
「クルマカンニセンコクアリシンネンノエンカイイマナオエンキザンネンナリタンネンベルクカイセンノケツカハシゼンチホウミンノシンノバンサンカイインニカンセズナオミンカンニソノサンカンヲコワントカンゼシナランイマケエイツノソ
前へ
次へ
全13ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング