山の関係者がでてこないかぎり、三次方程式の答えを、たった二つの方程式から求めるのと同じに、不可能のことです」
「ほほう、すると、君は、ゆかりのことなんかも怪しいと見るかね」
そこへドタドタと跫音がして、さっきの警官外山が上ってきた。
「課長どの、唯今、女給のゆかりが、こっそり帰ってきたのを、ここへひっぱりあげて参りました」
「なに、ゆかりというナンバー・ワンが……」
ふりかえって見ると、その階段の上り口に高価な毛皮の外套を着た、ちょっとみると、入江たか子のような洋装の娘が立っていた。
「おお、ゆかりさんか、ちょっとこっちへ来て下さい」
物馴れた大江山警部は、こともなげに、彼女をさしまねいたのだった。
「あなた、昨夜、何時ころから出て、どこへ行ってました、叱るわけじゃないから、ドンドン言ってください」
「あたし、あのウなんですノ、昨夜は、ちょっと外泊したんですが……」と、彼女は行末を契《ちぎ》ったNという青年と、多摩川の岸にあるH風呂へ泊りに行ったことを、真直ぐに告白した。そうして、午前五時近く暁の露を吹きとばしながら自動車で此処まで帰ってきたのだと言った。
(ウン、もう夜明けだ)
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