かった。全身《ぜんしん》は艶《つや》をうしない、変に黄色くなっていた。
 埃と一緒に、ぼくは掃き出された。そして放送所の後庭《あとにわ》に掘ってあるごみ捨て場の方へ持っていかれた。いろんなきたないものと一緒に、じめじめした穴の中に、ぼくは悲惨《ひさん》な日を送るようになった。身体はだんだんと錆《さび》て来た。青い緑青《ろくしょう》がふきだした。ぼくは自分の身体を見るのがもういやになった。
 思えば、ぼくほど不幸な者はない。こんな不幸に生れついた者が、またとこの世にあるだろうか。ぼくを生んだ人間が恨《うら》めしい。もっと気をつけて旋盤《せんばん》を使ってくれればよかったんだ。
 しかしぼくも途中でちょっぴり幸福を味わったことがあった。それはあの若い職工さんが、くだらない話に夢中になって、僕を放送機の孔《あな》に取付けてくれたからだ。あれから、この放送所へ来て、試験が行われている間までは、ぼくはたしかに幸福であったといえる。
 だが、今から考えてみると、それは間違った幸福だった。元々あの若い職工さんが、誤《あやま》ってぼくを放送機にとりつけたのであった。だからぼくは当然今のようなみじめな境界《きょうかい》に顛落《てんらく》することは、始めから分り切っていたのである。間違った幸福をよろこんでいたぼくは、何というばかだったろうか。
 或る日、このごみ捨て場に、舎宅《しゃたく》の子供たちが三四人で遊びに来た。汚いところだが、子供たちには、たいへん興味のある遊び場であるらしい。子供たちは、みんな女の子であった。ごみの山の上を、上《あが》ったり下《お》りたりして遊んでいるうちに、一人の鼻たらしの七つ位の子供が、ふとぼくを見つけて、小さな掌《てのひら》の上へ拾い上げた。
「いいものがあったわ。これは、きたないけれど、ねじ釘《くぎ》でしょう。お家へ持ってかえって、お母さんにあげるわ。額《がく》をかけるのに釘が欲しいってお母さんいっていたのよ」
 ぼくは、その子供の小さい手に握られていた。そして身体がぽかぽかと温くなった。
「どれ、見せてごらん」
 別の子供がやって来た。ぼくの主人は、小さな掌をひらいた。すると相手が大きな声を出した。
「まあ、きたないねじ釘ね。その青いものは毒なのよ。そんなものを持っていると手が腐《くさ》るから捨てちゃいなさい」
「まあ……」
 ぼくは、ぽいと捨てられ
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