は、その台の前にあった。
 東助も、ヒトミも、目を丸くしてこの実験台の異風景に見とれていたが、とつぜん、一箇の架台《かだい》がレトルトをのせたまま宙に浮いた。
「あッ」
 その架台は横の方へいって再び台の上へ足をおろした。次はビーカーがいくつも、ひとりでに台の上からまいあがって、台の隅《すみ》っこへもぐりこんだ。試験管が、ことんことんと音をたてながら台ごと横へすべっていった。
 と、とつぜんじゃーッと音がして、栓から水がいきおいよく流れだした。すると大きなビーカーが動きだして、水を受けた。
 水はビーカーの中に八分目ぐらい入った。水道の栓がひとりでに動いて、水がとまる。こんどはビーカーが実験台の上へもどってきた。と、アルコール・ランプの帽子がとび上って、台の上へ下りた。と、引だしからマッチがとびだしてきて、一本の軸木がマッチ箱の腹をこすった。軸木に火がついた。その火はアルコール・ランプの芯《しん》に近づいた。ぽっと音がして青白い焔《ほのお》が高くあがった。するとこんどは架台《かだい》と金網《かなあみ》とが一しょにとんでいって、アルコール・ランプにかぶさった。水の入ったビーカーがとんでい
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