なかった。
そのかわりに――というと、ちょっとおかしいが、玄関の扉がひとりでに動きだして、ばたんとしまった。そしてかけ金が、ひとりでに動きだして、がちゃりと音をたてて懸《かか》った。
ヒトミはもちろん東助も、頭から冷水《ひやみず》をぶっかけられたように、ぞおーッとして、左右からポーデル博士にすがりついた。
「幽霊屋敷……」
「目に見えない幽霊がいるんですね。何者の幽霊ですか」
見えない人
「さわいでは、いけないね。この家のご主人に対して失礼だから」
と、博士は冷やかに二人にいった。
そのときまたもや例のふきげんな咳ばらいの声がそばで聞え、それからたしかに人間がたっているにちがいない足音が、とんとんとんと廊下を奥へ伝わっていった。が、それは足音だけのことでやっぱり姿はなかった。
「ドクター・ケンプは、いつもぶっきら棒《ぼう》にものをいう。しかし心はいい人なんだから、君たちは恐れずに、何でも質問したまえ」
博士が二人の子供に注意をあたえた。
「あ、思い出したぞ」と東助がこのとき叫んだ。
「ドクター・ケンプは透明人間なんでしょう。ねえポーデル先生」
「ドクター・ケンプ
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