う》をわたるときに、連絡船がなかなかこないために、船つき場で何日も何日も待たされるようなものです」
「ははあ。すると海が荒れて交通が杜絶《とぜつ》したようなものですね」
「まあ、そうもいえますね。しかし四次元の世界とこの三次元世界の間には、天候が悪くなってしけになるというようなことはないのです。それはこれからあなたがたがいってみれば、よく分ります」
「あ、先生。あたしたちを、これから四次元世界とかいうところへ連れていって下さるのですか」
「そうですとも。しかし四次元世界だけではなく、二次元世界へも一次元世界へもご案内いたしましょう」
「四次元世界に、二次元世界に、一次元世界ですの。先生、三次元世界へは案内して下さらないのですか」
「ヒトミちゃん。ぼんやりしているね。三次元世界ならポーデル博士に連れていってもらわなくても、ぼくらが勝手《かって》にゆける世界なんだもの」
東助があきれたような声でいった。
「あら、ちがうわよ。あたし、まだ三次元世界なんかへいったことはないわ。また、三次元世界へ遠足《えんそく》したという話も聞いたことがないわよ」
「あははは。ヒトミちゃん、あんなことをいっているよ。君はいったことがあるよ」
「ないわよ。ぜったいにないわよ」
「あるともさ。だって三次元世界といえば、横と縦《たて》と高さの三つがある世界のことさ。人間のからだでも、木でも、マッチ箱でも、みんな横の寸法《すんぽう》と縦の寸法と高さとを測ることができるじゃないか。つまり、ぼくたちの住んでいるこの世界は、三次元世界なのさ」
「あーら、そうかしら。ほんとですか、ポーデル先生」
「そうですとも、ヒトミさん。東助君のいうとおりです。でありますから、ヒトミさんも東助さんも三次元世界に生れた三次元の生物でありまして、今、三次元世界の中に暮しているのであります」
「まあ、おどろきましたわ。あたし三次元世界に住んでいるなんて、始めて気がつきましたわ」
「では、樽の中にはいりましょう。そしておもしろい旅行を始めましょう」
次元《じげん》のなぞ
三人は樽の中にすいこまれた。
間もなく樽は横にたおれて、ごろごろころがりだした。煙突からぽっと煙をふきだしたと思ったら、早くも樽は長い煙の尾をひいて空中へまいあがった。そして白い雲の中に姿を消した。
樽ロケットの中の部屋は、いつものとおりで、べつにかわりはない。博士は操縦を自動操縦装置の方へきりかえ、操縦席からはなれて、東助とヒトミの前の椅子に腰を下ろしている。
「今わたくしたちが向っていく四次元空間とは、どんな世界か、分りますか。四次元とは何であると思いますか」
博士の質問である。
「横と縦と高さとがある世界が三次元の世界だと分っていますが、もう一つの元《げん》は何だか、さっぱり分りませんね。それは時間をいうのだと説いている人もありますね。つまり立体の物が、時間的にどうかわるかということと、むすびついて考えるのだといいますね。ここに大きな岩がある。それが何万年たって小石となる。そういうものをひっくるめて考えたものが四次元世界だといいますが、それなら、ぼくたちの住んでいる世界は、三次元の世界でもあると同時に、四次元の世界だといえるというのです。しかしぼくはこの説は、四次元世界をほんとに説明していないと思います。四次元世界は、もっとはっきりした寸法のある世界じゃないでしょうか」
「まあ、東助《とうすけ》さん。むずかしいことをおっしゃるわね。誰に教わったの」
「その説にも、じつはいろいろ根拠があるのですが、とにかく四次元空間を考えるには、時間のことは考えに入れない方がいいでしょう。もっと分りやすい方法をとって、四次元世界を考えましょう」
「それなら、ぼく、知ってます」と東助がいった。「横と縦と高さの三つがあるものが立体ともいう三次元の物です。ぼくらの目につくものはたいていこれです。石も本も机も、三次元のものです」
「それから、どうなりますか」
「今、横と縦とだけしか見えない物があったとします。つまりその物には高さがないのです。これが二次元の物です。その中は二次元世界です。たとえば、うすい紙は、この部類に入れていいですね。それから水の上にうすく流した油の膜《まく》もそれに近いものだと思います。ほんとは、いくらか高さがあるんですから、やかましくいうと、やっぱり紙も油の膜も三次元なんですが、まあおまけをして二次元の物といってもいいと思います。先生、この外《ほか》にも二次元世界をもったものは、たくさんありますね」
「はい。あります。紙の上に書いた画も、その部類だといってもいいですね。それからみなさんが好きで、よくごらんになる映画、あれもそうです。つまりあれは、映写幕の上にうつっている横と縦とがあるもので、高さは
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