竹につってふりまわしていた。そのラッパには長いゴム管《かん》がついていた。その男は頬をふくらませて吹いた。するとぷっぷくと音がでた。
 もう一人の男は、エジプト人形をつった細竹をもって、ゆらゆらと左右にふっていた。
(ひどいインチキだ。なにが心霊ゴングだ)
 と、東助は腹が立った。そのとき博士が眼鏡をかえすようにと、ささやいた。そしてこの会の最後まで、何もしらないことにして、さわいではいけないと注意をあたえた。
 この実験会が大成功に終って、ゴングの霊は拍手におくられて消えた。そしてそのあとで会長が電灯をつけた。
 すると岩竹女史は、いつの間にか前と同じ形で椅子に厳重《げんじゅう》にしばりつけられて、ねむっていた。それをよびさまさせるために、髭《ひげ》の会長は、また呪文《じゅもん》のようなことをいった。女史は大きな声で、
「ああ、よくねむった。わたしは何かしたでしょうか。何も知らないのです」
 としらっばくれていった。
 その会が終っての帰路《きろ》に、ポーデル博士は東助とヒトミにいった。
「今日のふしぎ国探検は、インチキのふしぎ国探検でありました。あれを、会員のみなさんは、ほんとのふしぎだと思って信じているのです。困ったものですね」
「あんなに霊媒《れいばい》の身体をよく椅子にしばりつけておいたのに、どうして綱をはずして抜けでていたのでしょうか」
「あれは綱ぬけ術という奇術《きじゅつ》なんです。インチキなしばり方をしてあるのですから、かんたんにぬけたり、またしばられたようなかたちになります」
「あの蘭は、熱帯産のものではなかったのですか」
「あれは本ものです。しかし温室に栽培してあるものを利用したのですよ。やっぱりインチキなやり方です」


   四次元《よじげん》世界


 このところしばらく、ポーデル博士にゆきあわない東助とヒトミであった。
 二人は、この一週間ばかり、毎日のように浮見《うきみ》が原《はら》へ通い、博士が樽ロケットに乗って地上へ下りてくるのを待ちうけた。しかしいつも待ちぼうけであった。
「ヒトミちゃん。どうしたんだろうね、ポーデル博士は」
 東助は、いつになく博士のあらわれ方がおそいので、ひょっとしたら、あのような神か魔か分らないほどのえらいポーデル博士も肺炎《はいえん》にでもなって、床《とこ》についてうんうん呻《うな》っているのではないかと心配している。
「ほんとに、どうしたんでしょうね。どこかたいへん遠方へ旅行していらして、なかなかここまでおいでになれないのじゃないかしら」
 ヒトミは、博士の遠方旅行説をだした。
「でも、博士の樽ロケットはすごいスピードをだすんだから、どんなに遠くへいっても、すぐ引返してこられるはずだものねえ」
「大宇宙のはてへいっていらっしゃるんじゃないかしら。一度あたしたちが、大宇宙のはてはどんなになっているか見たいなあ、といったことがあるでしょう」
「そうだったね。それでもあの樽ロケットに乗って走れば一と月とかからないはずなんだがね」
 そういっているとき、二人は空の一|角《かく》に、かねて聞きおぼえのある音響を耳にした。
「あ、樽ロケットが飛んでいる音だ」
 その音は、ちょっとの間にどんどん大きさを増していった。と、二人の前へ、空からどすんと落ちてきたのは、例の樽ロケットであった。胴中《どうなか》がふくれて、あいきょうのある形をしている、その樽だった。上に小さい煙突のようなものがついて、そこから残りの排気《はいき》らしい煙がすうーッと立ちのぼる。するとその煙の中から、ガウン姿のポーデル博士がひげ面《づら》をにこにこして二人の前に立った。
「こんにちは。ヒトミさん。東助さん。おやおや、びっくりしていますね」
「先生。よくきて下さいましたね。ずいぶんおそかったですね」
「先生、ご病気だったんですの」
「ははは。わたくし、病気すること、決してありません。ほほほッ」
「じゃあ、どこか、うんと遠いところへいっておられたのですか」
「大宇宙のはてへいってらしたんですか」
「ちがいます、ちがいます」博士は首を左右にふって「じつは、いずれあなたがたを案内したいと思っていた四次元《よじげん》世界へいっていたのです」
「ああ、四次元世界ですか。あのふしぎな高級な四次元空間の世界ですね。あんなところにいっておられたのですか」
「その何とかの世界は、ここから遠いのですか」
「遠いこともあり、近いこともあります。目の前に、その世界が、この世界と重《かさ》なりあっている事もあります。とにかくなかなかつかまえるのにむずかしい世界です。わたくし、ここへくるのがおそくなったわけは、四次元世界と、この世界の連絡が切れてしまって、なかなかつながらないため、四次元世界にとり残されていました。ちょうど、海峡《かいきょ
前へ 次へ
全32ページ中18ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング