いて、数のすくない生物だ。それでいて、かれら人類は、地球はおれたちのものだ、とばかりに横暴なことをやりおる。まことにけしからん」
「まったくそのとおりだ」
「そうでしょう。数からいうと、人類なんか、われわれ蠅族にくらべて一億分の一の発言権もないはずだ。ところが人類のすることはどうだ。蠅叩《はえたた》きという道具でわれわれを叩き殺す。石油乳剤《せきゆにゅうざい》をぶっかけて息の根をとめる」
「まだある。蠅取紙という、ざんこくなとりもち地獄がある」
「ディ・ディ・ティーときたら、もっとすごい。あれをまかれたら、まず助かる者はない」
「あれは、まだ値段が高くて、あまりたくさん製造できないから、人類は思い切ってわれわれにふりかけることができない。まあそれでわれわれは皆殺しにあわなくて助かっているんだが、考えるとあぶないねえ」
「人類は、どこにわれわれ蠅族《はえぞく》を殺す権利を持っているんだ。けしからん。天地創造の神は、人類だけを作りたもうたのではない。象を作り、ライオンを作り、馬を作り、犬、猫、魚、それから蛇、蛙、蝶、それからそのわれわれ蠅族、その他細菌とか木とか草とか、いろいろなものを作りたもうた。われわれは神の子であるが故に、平等の権利を持って生れたのだ」
「そうだ。そのとおりだ。人類をのけたすべての生物は、人類に会議をひらくことを申込み、その会議の席でもって平等の権利を、人類にもう一度みとめさせるんだ。そして人類を、小さいせまい場所へ追いこんでしまわなくてはならぬ」
「大さんせいだ。蚊族、蝶族、蜂族などをさそいあわして、さっそく人類へ会議をひらくことをしょうちさせよう」
「それがいい。そうでないと、われわれはほろびる」
「やあ、諸君は、何をそんなに赤くなって怒っているのか」
「おお、君か。おそかったね。さあ、ここに席がある」
「ありがとう。……ちょっと聞いたが、また人類の横暴を攻撃していたようだね」
「そうなんだ。だからひとつ地球生物会議をひらかせ、人類をひっこませようと思うが、どうだ」
「もうそんなことをするには及ばないよ。人類はもうしばらくしたら亡んでしまう。人類は自分で自分を亡ぼしかかっている」
「ほんとかい。そんなことを、どこで聞いてきたのか」
「これは私の推論だ。いいかね、人類は最近原子弾というものを発明した。それは今までにないすごい爆発力を持ったもので、
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