う。ああ、きました。ヒマラヤのいただきです。しずかに着陸します」
博士のいったとおり、樽ロケット艇は気持よく、ゆっくりと着陸した。
「外へでるのですか」
「いや、外はなかなか寒い。今でも氷点下三十度ぐらいあります。蠅のテレビ劇は、この樽の中で見られます。この器械がそれを受けてこの四角い幕に劇をうつします。また蠅のいうことばを日本語になおしてだします」
「蠅のことばが、日本語になるんですの。そんなことができるんですか」
「できます。ものをいうとき、何をいうか、まず自分が心の中で考えます。考えるということ、脳のはたらきです。脳がはたらくと、一種の電波をだします。その電波を増幅《ぞうふく》して放送します。それを受信して、復語器《ふくごき》を使って日本語にも英語にも、好きなことばになおします。わかりましたか」
「わかったようでもあり、わからないようでもあり」と東助は首をふって「それより早く、その蠅の劇を見せて下さい。いや見せて聞かせて下さい。その方が早わかりがします」
「よろしい。すぐ見せます。あなたがた、椅子《いす》をこの前において腰かける、よろしいです」
そういって博士は、後向きになって、蠅の脳波を受信するテレビ受信機のスイッチを入れ、たくさんの目盛盤《ダイヤル》をひとつずつまわしはじめた。
すると、四角い映写幕《えいしゃまく》に光がさして、ぼんやりした形があらわれて、ゆらゆらとゆれ、それからかすかなしゃがれた声が高声器の中からとびだした。
「何かでましたね。しかし何だかはっきりしませんね」
東助はいった。ヒトミも前へのりだす。
「今もうすこしで、はっきりします。お待ち下さい」
なるほど、そのとおりだった。間もなく急に画面がはっきりし、くさったかぼちゃの上に五六ぴきの蠅がたかっているところがうつりだした。
と、声も又はっきりしてきた。羽根《はね》の音がぶんぶん、くちばしから、かぼちゃの汁をすう音がぴちゃぴちゃと、伴奏のように聞えるなかに、蠅たちは、しきりにおしゃべりをしている。――
「アナウンスをいたします。これは『原子弾戦争の果《はて》』の第二幕です。あまいかぼちゃ酒がたらふくのめる、ごみ箱酒場で、大学教授たちが雑談に花を咲かしています」
「とにかく人類は横暴《おうぼう》である。かれらの数は、せいぜい十五億人ぐらいだ。この地球の上では、人類は象と鯨につづ
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