もしそういうものがあったら仕方ないでしょう」
「それは無茶《むちゃ》ないい方です。『エネルギー恒存《こうぞん》の法則』というのがあります。これは、宇宙にあるエネルギーを合わせたものは、いつも同じ量であって、ふえたり、へったりしない。だから、かりに、エネルギーを全く使わないで動くものができたら、そのときには宇宙のエネルギーはどんどんふえていきます。すると、これは今お話した『エネルギー恒存の法則』に反するわけです。ですからエネルギーなしで動くものは、けっしてできないのです。わかりましたか」
「さあ。わかったような、わからないような」
「わからないのは、今の法則のあることを第一に考えないからなのです。出発点がまちがっているのです。考え直してごらんなさい」
「まだ、わかりません」
「困りましたね。では、自転車に潤滑油《じゅんかつゆ》をさしますね。ところが、ある人があって、油のかわりに水をさしてもいいのだと思いちがいをし、いくらほかの人がおしえても、考えをなおしません。そして油のかわりに自転車に水ばかりをさしています。すると、この自転車はどうなるでしょうか」
「その自転車は、軸《じく》うけがさびてだめになるだけです」
「そのとおりです。水は油のかわりにはならない。そういう法則を、その人ははじめから信じなかった。だから、やがてその自転車がだめになることが、理解できなかった。そうですね」
「そうです」
「君たちは、『エネルギー恒存《こうぞん》の法則』というのがあるのを、まずおぼえて下さい。そしたら、無から有を生ずるなどという永久機関は、けっしてできるものではないということがわからなくてはならないはずです」
「ああ、そうか。今、やっとわかりました」
おわかれ
「永久機関には、もう一つの種類があります。それは、熱を低いところから高いところへ移して、永久機関をこしらえるというのです」
「なんですか、それは」
「摂氏《せっし》十五度のものを摂氏十四度に下げ、他の摂氏十五度のものを摂氏十六度にあげるのです。こうして、一方をどんどん下げていって、他方の温度をあげていく。そういうことができるなら、燃料問題も困らないわけで、永久無尽蔵《えいきゅうむじんぞう》に燃料はあり、永久機関もできるのですが、ほんとはできない」
「なあんだ。できないのですか」
「『熱力学第二の法則』というのがあ
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