料も何も補充しないで何万年でも何億年でも、動きつづけるのですから。そこで、昔から、ずいぶんたくさんの発明家が、このような永久機関の発明に一生けんめいになったものです。全財産をそれにうちこんで、生命まで失った人もあります。おかしくなった人なら、数えることのできないほど、たくさんあります。とにかく永久機関は、どんなうまい仕掛であっても、それは実現できない機械なのです。おそろしい永久機関の魅力です。なんというふしぎな永久運動の謎でしょう」
ポーデル博士は、しみじみといって、それから立上り、樽ロケットの操縦席についた。
「それでは、今日は、永久運動を研究している人たちを二三人、見学することにいたしましょう。その窓からのぞいてみて下さい。さあ、でかけますよ」
樽ロケットはとびだした。あんまり早くとぶから、外には何にも形のあるものが見えない。ただぼんやりとした色と光が、まるで、雲のように去来するだけだ。
「ほら、ごらんなさい。あの人を……」
博士がいう。すると、窓の外の景色が、しずかに停まった。
ヨーロッパ人らしい。古い型の服を着ている。その人が大きな四角いゼンマイ時計の前で腕をこまぬいている。時計の長い針が、まわっている。じじッと音がしている。
「ポーデル先生。あの人は、なにをしているのですか」
ヒトミが、たずねた。
「あのヨーロッパ人も、永久機関の時計を考えているのです。ゼンマイ針がまわります。針がまわれば、コイルに電気を誘導《ゆうどう》します。その電気で、小さいモートルをまわし、ゼンマイをまくのです。すると、時計は永久にひとりでまわっているはずだと、あの人は考えているのです」
「それはうまくいきますか」
「どうして、どうして。やっぱり永久機関ですから、うまくいきません」
毛管現象《もうかんげんしょう》の利用
「もう一つ見学しましょう。とびますよ。すぐ近くです」
ポーデル博士のことばが終ると間もなく、これもまた古い洋館の一間の中が見えた。品のある貴族がしきりに、水槽の中に、海綿のベルトを見つめている。
「あれが有名なるコングレープ卿です」
と、ポーデル樽士が解説した。
「あの人は、なにをしているのですか」
「金属のベルトの内側に海綿《かいめん》がはりつけてあるものを作っておきます。これを1と2の二つの滑車《かっしゃ》にかけて、あのように一部分は水
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