やはり、距離の自乗に反比例することが証明されています。たしかにこれはありがたいことなんです」
と、博士はいって、ちょっとだまった。
「先生、距離の自乗に反比例ではなく、きっきの(ロ)の場合のように、距離に反比例するのなら、ぼくらの生活にさしつかえないのではありませんか」
「東助君がそういうだろうと思っていました。しかしねえ、東助君。(ロ)の場合になると、さっきもいったように、人間の身体に、他の大きな物体の引力が強くあたりすぎますから、人間は今よりもずっとからだが不自由になるし、おもしろくない力を外から受けなくてはならないのですよ。そういう世界へ、これからちょっと、案内してあげましょう」
「待って下さい、ポーデル先生。さっきの隕石で、もうこりごりですわ。とうぞ、そんないやな世界へお連れにならないで下さい」
「おやおや、ヒトミさんは、たいへんこりましたね。よろしいです。それでは、この窓から、(ロ)の場合の世界をのぞいていただくことにしましょう。どうぞごらんなさい。もう見えていますよ」
「えっ。もう見えていますか」
二人は、窓へ顔をもっていって、硝子《ガラス》の丸窓の外へ目をやった。
公園のそばの路を子供たちが、わいわいいいながら歩いている。
すると、その後の方の子供が、忽《たちま》ちにすうーッと宙に浮いた。糸の切れた風船のように浮きあがったのである。
「あら、どうしたのかしら」
と、まもなくその子供は下へおりてきた。その代り、その前にいた子供たちが、後の方から前の方へ、だんだんに宙づりになった。そしてやがてみんな元のようにおりた。
それは奇観であった。
「先生。今のは、どうしたんですか」
と、東助がたずねた。
するとポーデル博士は答えた。
「今のは、すぐそばを飛行機が低空飛行で、子供たちの上を通ったからです。距離の自乗に反比例するなら、あんなことは起らないんですがね。もう一つ、別な光景を、見せましょう」
ぱっと場面がかわる。
田園都市の文化住宅の庭で、太った奥さんが、しきりに空を見上げて、
「おーい、おーい」
と呼んでいる。
「あれは、何をしているのですか」
と東助がきく。
「今に分ります。上から落ちてくるものがあります。それを見れば分ります」
どすーンと音がして、空から庭のまん中に落ちてきたのは、藤《とう》の寝椅子だった。と思うまもなく、こん
前へ
次へ
全63ページ中58ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング