》もないことなのさ。砲弾が、ものをいったのは、砲弾の中に、小型の受信機《じゅしんき》がついていて、わしの声を放送したんだ」
「それは、もう分っています。それよりも、なぜ、あのように低速で飛ぶのですか。落ちそうで、一向《いっこう》落ちないのが、ふしぎだ」
「それは、大したからくりではない。重力を打消《うちけ》す仕掛《しかけ》が、あの砲弾の中にあるのだ。これはわしの発明ではなく、もう十年も前になるが、アメリカの学者が、ピエゾ水晶片《すいしょうへん》を振動させて、油の中に超音波《ちょうおんぱ》を伝えたのだ。すると重力が打消され、油の中に放りこんだ金属の棒が、いつまでたっても、下に沈んでこないのであった。その話は、知っているだろう」
「ええ、その話なら、知っています」
「そのアメリカ人の着想《ちゃくそう》に基《もとづ》いて、わしが低速砲弾に応用したんだ。つまり、砲弾の中に、それと似た重力打消装置《じゅうりょくうちけしそうち》がある。もし重力を完全に打消すことができたら、砲弾は、地球と同じ速さで、地球の廻転と反対の方向に飛び去るわけだが、それはわかるだろう」
「なるほど、なるほど」
 と、私も前へのり出した。
「しかし、重力をそれほど完全に打消さず、或る程度打消せば、それに相当した速度が得られる。低速砲弾においては、ほんのわずか重力をうち消してあるばかりだ。それでも、途中で地面に落ちるようなことはない」
「それはいいが、砲弾の飛ぶ方向は、どうするのですか」
 ロッセ氏が、息をはずませて訊《き》く。
「それは飛行機や艦船《かんせん》と同じだ。舵《かじ》というか帆というか、そんなものをつけて置けば、いいのだ。操縦は遠くから電波でやってもいいし、砲弾の中に、時計仕掛《とけいじかけ》の運動制御器《うんどうせいぎょき》をつけておいてもいい。――それはまあ大したことがないが、わしの自慢したいのは、この砲弾は、はじめに目標を示したら、その目標がどっちへ曲ろうが、どこまでもその目標を追いかけていくことだ。だから、百発百中だ」
「ほう、おどろきましたな。目標を必ず追いかけて、外《はず》さないなんて、そんなことが出来ますか」
「くわしいことは、ちょっといえないが、軍艦でも人間でも、目標物には特殊な固有振動数《こゆうしんどうすう》というものがあって、これは皆違っている。最初にそれを測《はか》ってお
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