遂に、種ヶ島の短銃を担ぎだすもの、それから御上《おかみ》の特別のおゆるしを得て、鉄砲組で攻めもした。
 ドドーン。ドドーン。
 くろがね天狗めがけて、粉微塵《こなみじん》になれよとばかり射かけた。さてその結果はというと、くろがね天狗は二、三歩たじろぎはするが、すぐ立直って、どこを風が吹くという様子でノソノソと街上を歩いてゆくのであった。そうなると太刀も銃も効き目のないことでは同じことだった。江戸の住民たちの恐怖は、極度に達したのだった。
「くろがね天狗の正体は、そも何者ぞや」
 ――と、町奉行与力同心は云うに及ばず、髪結床《かみゆいどこ》に集る町人たちに至るまで、不可解なる怪人物に対する疑問に悩みあった。
「とにかく権四郎が悪い。あれは恋敵の高松半之丞に違いない。半之丞の呪咀《じゅそ》が、彼を文字どおりの悪鬼にかえたのだ」
「うん、なるほど。そういえばなァ」
 というので、半之丞説が俄《にわ》かに有名となると共に、死んだ権四郎にひどい悪口を叩くものが日に日に多くなった。
「半之丞さまでは御座りませぬ。その証人と申すは、斯く申す虎松で……」
 と、聞くに怺《こら》えかねた虎松が、い
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