かも奇妙なことに、渋谷博士からの応答によれば、ロケットの機械を検査してみたがいっこうに故障がみあたらないというのであった。要するに、宙ぶらりんになってしまったのはなぜだか判らないのであった。世界の天文学者と物理学者はその謎をとくことに夢中になった。やがてオランダの物理学者サール博士が衆に先んじて飛躍的な解決をつけた。
「わが赤鬼号の空間停止の謎がついに解けた」と博士は放送機の前でいう。「それは赤鬼号が万有引力との中点にとびこんでしまったからである。赤鬼号がそのいちじるしき質量を変じないかぎり、この停止状態は永遠につづくことであろう」
 世界は大きく震駭した。万有引力の中点……なるほどそんなものが考えられる。それは無人境の大地にあいている深い陥穽のようなものだ。一度墜ちてしまえば、救われることはまず不可能だ。――それから数日にわたって、私はスクリーンの上に苦悩の色の濃くなってゆく恩師の顔を、どんなに痛々しく眺めなければならなかったろう。
「宇留木君」と博士はある朝ふと私に呼びかけた。「わしはいよいよ最後の努力をするつもりだ。私はじつにいい手段を考えたのだ。しかし私は永遠にこの送影機の前か
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