的熱情が、この暴挙にとびこませたのだ。
 これをアナウンスされた全世界は震駭した。各国の優秀なる新聞記者は、いずれも言いあわせたように、自国のテレビジョン学者をともなって、旅客機をかってはせつけた。それは一時間でも早く、私の手許にのこっている第二号機からロケット内の渋谷博士にインタービュウし、空前の探検譚と処女航路の風景とを手にいれんがためであった。そしてその次には一刻も早く、同型のテレビジョン機をつくって自国の放送局から放送したいためでもあった。なにしろ計算によると、火星到着まで、七、八カ月も間があるので、これから至急につくれば大丈夫間にあうものと思われた。
 はたして四カ月めには、各国各地いずれにも受影装置が働きだした。全世界の目は、渋谷博士の運転するロケットの上に集まっていた。
 しかし宇宙は銀座通りのように華やかではなく人々はようやくロケット「赤鬼号」からの報道が毎日あまり単調なのに倦きはじめた。
 ちょうど満五カ月めになって、世界の人々のあくびを一瞬にしてとまらせるような一大椿事が出現した。それはロケット「赤鬼号」が故障を起して宇宙に宙ぶらりんになってしまったことであった。しかも奇妙なことに、渋谷博士からの応答によれば、ロケットの機械を検査してみたがいっこうに故障がみあたらないというのであった。要するに、宙ぶらりんになってしまったのはなぜだか判らないのであった。世界の天文学者と物理学者はその謎をとくことに夢中になった。やがてオランダの物理学者サール博士が衆に先んじて飛躍的な解決をつけた。
「わが赤鬼号の空間停止の謎がついに解けた」と博士は放送機の前でいう。「それは赤鬼号が万有引力との中点にとびこんでしまったからである。赤鬼号がそのいちじるしき質量を変じないかぎり、この停止状態は永遠につづくことであろう」
 世界は大きく震駭した。万有引力の中点……なるほどそんなものが考えられる。それは無人境の大地にあいている深い陥穽のようなものだ。一度墜ちてしまえば、救われることはまず不可能だ。――それから数日にわたって、私はスクリーンの上に苦悩の色の濃くなってゆく恩師の顔を、どんなに痛々しく眺めなければならなかったろう。
「宇留木君」と博士はある朝ふと私に呼びかけた。「わしはいよいよ最後の努力をするつもりだ。私はじつにいい手段を考えたのだ。しかし私は永遠にこの送影機の前か
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